僕達、魔王とか勇者とか関係ないよね
プロローグ的なものです。
この世界は神々の遊び場。
それぞれの陣営に分かれて、魔王と勇者を中心に加護を与えて勝敗を競っている。
勇者が魔王を倒しても、魔王が勇者を倒しても、それぞれの力は新たな人物に渡り、繰り返し遊び続けられる。
繰り返される争いに人の意思は関係ない。人は神々の駒なのだから。
ある時、同じような争いを見飽きた一柱の神が言い出した。
つまらないからこの世界を壊してしまおう、と。
まだまだ遊びたい他の神が反対すると、その一柱の神は「じゃあ、あと三回ね。今は引き分けだから三回勝負したら決着が付くじゃない。それが終わったら壊そう」と提案した。
長年の勝負が決まるならばと、反対していた神々も残り三回勝負後に世界を壊すことに賛成した。
しかし、加護を与えていくうちにこの世界に愛着を持った一部の神々は細工する。
この世界は三回勝負のあとに壊される。では、勝負が行われないようにしてしまえばいい、と。
この遊戯は魔王と勇者に加護を与えて争う。これは基本であり絶対のルール。
その両者の力は絶大だ。長年与え続けた加護により神々の力に近くなっている。
周りに与える影響は計り知れない。
ならば、その力を使えなくしてしまえ。
神の力は神の理でのみ封じることができる。
魔王の、勇者の力を継ぐ者にこの鎖を。成人し、力に目覚めるまでに必ず見つけ出し封印を施せ。
「だって。これって本当かな?どう思う、ラグ?」
「ただの弱体化の鎖にそんな設定はいらないわよ……」
僕の腕の中でうなだれるヴィンガール王国ラグランジュ第二王妹殿下、二十三歳、独身軍人。
僕こと、エリアヴェータ帝国第四皇子アレクサンドルがこの友人に王家が管理する秘密の神殿で管理されている遺物の解析をお願いしたところ、呪いにかかり抵抗むなしく弱体化させられてしまったというわけだ。
七歳くらいの幼い女の子の姿に。
もう一度言おう。
七歳くらいの幼い女の子の姿だ。
……目の前でナイスバディの友人が縮んでいく様子はなかなかにエグかった、とだけ言っておく。
大人用の服の中でうごめいている様子の幼いラグの姿にクルものがあったが、今はそんなことを言っている場合ではない。
ラグを抱きかかえ、神々うんぬんと書かれた用紙を持って窓際にある隠し通路へ入る。 本当は着替えさせたかったけど、この状態のラグを誰かに見られるわけにはいかない。
何度か通路を変えながら、皇太子であるマクシム兄上の部屋に向かう。この時間なら自分の部屋にいるはず。
そっと兄上の部屋を伺い、秘密の合図を送る。人払いしてくれたのを見計らって、ラグを抱きかかえたまま、兄上に近づく。
「……とうとう誘拐までするようになったか」
ため息をつきながら顔を覆う兄上に、先ほどあった出来事を説明する。
疑うような目つきで話を聞いていた兄上だけど、ラグの口からも説明がされると、両手で顔を覆い深いため息をついた。
「おそらく、その用紙に書いてあることは本当だろう。皇帝を継ぐ者にだけ教えられる話と一致している。長年、鎖の存在を探していたのだが、まさかあの神殿にあったとはな」
えー、本当なんだ、あれ。
てことは、ラグが触ったら鎖が起動したってことは、ラグは魔王か勇者ってこと?
未だに僕の腕の中でぐったりした様子のラグを覗き込む。
「違う。魔王も勇者も生まれればすぐに分かるようになっている。その姫の年は二十三だろう?魔王と勇者は今年で十のはずだ」
じゃあ、この鎖を早くその魔王と勇者に巻かないと世界の危機なんじゃないの?
「そうだ。世界の存続のためにはその鎖が必要だ。だから、分かるな?アレク」
その手は何?ラグをどうする気?渡さないよ。
「渡せ。その姫一人の命で世界が救えるのだぞ」
呪いを解くよ。そして必ず、兄上に鎖を渡す。
「無理だ。勇者と魔王が成人するまであと五年だ。出来るわけがない」
「……出来るわ」
これまで黙っていたラグが僕の腕の中から兄上を睨みつけながら言った。
「最果ての地にあるダンジョンの奥に何でも解呪できる宝玉がある。それを使えばこの呪いは解けるはずだわ」
最果ての地の解呪の宝玉って、この世界を作った至高の方がこの世界に贈ってくださった七つの宝玉の一つのアレ?
おとぎ話じゃないの?実在するの?
疑問に思っている僕を置いてラグと兄上の間で話が拗れていく。
何か面倒なことになったからこのままラグを連れて最果ての地へ行こう。
まずは、ラグに服を着せようっと。
とりあえず僕の部屋にある人形のヤツでいいよね。
では兄上、僕とラグは駆け落ちしたってことでヨロシク。