後編
映画館に入った俺は、ゆったりと椅子に座り込んだ。
目の前には、何も上映されていないスクリーン。
それを見ながら……。
どうしてこんなことになったのか、頭を振り絞って、改めて考えてみる。
「……」
残念ながら、よくわからなかった。
俺の思考能力が、状況のせいで正常に機能していないのだ。
それでも発端となった出来事だけは、かろうじて覚えていた。
昔テレビで見たパニック映画。ゾンビが大量発生という物語。
あれと似たような事件が、現実で勃発したらしい。
今の俺は、映画の登場キャラみたいな立場だ。
そう、こんな感じのモールに立てこもる話も、パニック映画の定番だった気がする。
ただし映画では、仲間も一緒なのが普通だった。
一方、今の現実はどうだ。
最初は大勢いた仲間も……。
一人、また一人と、奴らの手にかかって亡き者にされてしまった。
おそらく俺が最後の一人だ。
日本中、あるいは世界中を探せば、まだ残っているのかもしれない。だがそんな長距離移動は、もはや俺には不可能となっていた。
「俺は、ここで……。この映画館で、始末されるのだろうか」
しみじみと呟く。
いや実際には『呟く』という言葉は不適切かもしれない。今の俺は、まともに話すことも難しくなっていた。
もしも俺の発言を誰かが耳にしたとしても、モゴモゴと不明瞭な音声にしか聞こえないだろう。
これでは、遺言だって口に出来やしない。
そう考えて、俺が苦笑いした瞬間。
バンッ!
大きな音と共に、映画館の扉が開く。
しかも、いくつもの扉が同時に。
ついに、奴らが入って来たのだ!
四方八方から!
奴らは皆一様に、丸くて細長い武器を手にしていた。
あの武器の名称は、確か……。
思い出そうと俺が努力している間に、正面にいた男が、皆を代表して宣言する。
「貴様が最後の一匹だ! このゾンビ野郎め!」
ああ、やはり俺で最後だったのか。
そう考えると同時に、ライフルという言葉が頭に浮かぶ。しかしその瞬間、奴らのそれが一斉に火を吹くのだった。
(「ゾンビ vs 生存者 ――おそらく俺が最後の一人――」完)