雛人形は強い1
「ブンちゃん、三月だねー」
銀髪のきれいな長い髪を持つ、手のひらサイズのドールはーちゃんがほのぼのつぶやいた。
「あー、そうだな」
コシミノに下駄というアンバランスな格好の男、ブンちゃんははーちゃんを手のひらに乗せてつまんなそうに答えた。
このブンちゃんという男はここ、『お人形ランド!』というレジャー施設で人間に祈られてうまれた神である。一応、日本神で鳥居もあるがなぜかブンバボンバという名前で南の島にいそうな民族風の格好をしていた。
ちなみに目の前には雛人形の七段飾りが豪華に飾ってある。
『お人形ランド!』では三月になると雛人形を飾る。むしろ、これが『お人形ランド』のメインであり、お客さんは少女を中心になんとなく盛り上がるのだった。
「あかりをつけましょ、ぼんぼりにー、お花をあげましょ、ももの花ーってか?ん?これ、ももじゃなくて梅じゃね?」
ブンちゃんがひな祭りの歌を歌いながら七段飾りの下に飾られていた梅の花を指差した。
「花がきれいだったから従業員がこっちにしたらしいよー。気合い入れてたー」
はーちゃんはのんびり答えた。
「はあ……まあ、いいけどな。雛人形はいいが、問題はこれだ」
ブンちゃんははーちゃんを下に降ろすと空間を指でつつき、アンドロイド画面を出した。データファイルからは大量のお願い事が出てきた。
「俺は神だが……無理な要求が多過ぎて叶えられーん!!これ、見ろよ。十万体以上の雛人形がほしいだのひなあられを腹一杯食いたいだのあげくのはてには宇宙でひな祭りしたいとか……アホか……」
「あー……子供の要求ってたまに酷だねー」
画面に流れるデータを見ながらはーちゃんは軽く笑った。
「てきとーに賽銭入れやがってもうー!!」
「全部叶えるのは現実だと無理だけどー、夢にしといたらー?」
「あ!なるほど!夢で叶えてやりゃあいいか!後で人形達に頼んどこ。はい。これはぜーんぶ終わりっと。あと、これな」
ブンちゃんはさっさとファイルを更新すると新しいデータを表示した。
「初節句で雛人形買ったんだと。で、なぜか俺のとこで嫁入りまで妹を守ってくださいと。妹?よくわからんがまあ、なんにせよ、娘を守るのは俺じゃなくて雛人形だぜ……。厄を被ってくれんだから……放っておいていいか?これ?」
「はあー、初節句……かー。ドールの出番が多いですなあー。注目されてるー。わーいー!」
「あのな……お前らは雛人形からかけ離れた西洋ドールだぞ……」
のんきに喜ぶはーちゃんにブンちゃんがため息をついた。
「まあまあー。それよりこの子、母親じゃなさそうだよー?妹って言ってるからお姉さんー?」
「だよな……どういうこった?」
ふたりが頭を悩ませているとやたらと元気な少女の声がした。
「ん?」
「はーい!!はーい!!私!その人知ってまーす!!!」
「あー、メイちゃんかー」
やたらと元気な少女ドールはメイちゃんというらしい。
身長ははーちゃんと同じ手のひらサイズ。明るい茶色の髪とくりくりな目が特徴のかわいい感じのドールだ。
「ビックリマークだらけなハイだな……。で?謎を教えてくれ」
「はーい!!実は!ここ、父子家庭なのです!!お父様が一生懸命働いていますが二人の娘を養うのでやっと!上のお姉ちゃんは高校生!下の子は現在小学生みたいです!」
「ちょい待て!声がでかすぎてあんまり入ってこねーが……小学生なら初節句じゃねーだろ」
気分が上がっているメイちゃんにブンちゃんが突っ込んだ。
「初節句なのです!!はい!今まで雛人形買ってあげられなかったみたいです!!だから初節句なのです!!初の雛人形節句なのです!!わかりましたか!!」
「だー!うるせー!わかった!わかったつーの!」
無理やり押し通したメイちゃんにブンちゃんはとりあえず頷いた。
「お父様もこんなちっちゃいのでごめんねってうう……。お守りのパワーが足りないかなってうう……。なんて素敵な家族なんでしょう!!おーん!おーん!!!」
メイちゃんは今度は大声で泣きはじめた。
「う、うるせー!!泣くな!あー、なんかわかったぜ。お守りのパワーが足らないかなと親父が言ったから七段飾りあるうちで祈ったんだな」
「そぉなんですよ!!」
メイちゃんがつかみかかるようにブンちゃんに言った。
「わ、わかったから!……しかし、父子家庭か……大変だな……。上の姉が母親代わりか」
「じゃあさー、ちゃんと守れるお人形か見に行くー?まあー、どんなお人形でも想いがあれば守るしー、身代わりになるけどねー。夢でお姉ちゃんにお人形さんに会わせてあげるーとかー」
はーちゃんがほのぼの言った言葉にメイちゃんとブンちゃんは大きな声で叫んだ。
「それだぁ!!」