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節分の夢1

二月。

今年はあまり寒くないが乾燥が激しいと思う。風は冷たいがひなたは暖かいという不思議な季節である。


人気のないエンタメ施設『お人形ランド!』はいつも通り閑散としているがなんだかちまちまお客さんが入っているようだ。


けっこう高価なお人形が飾ってあるからかマニアはニヨニヨ微笑みながら写真を撮っている。


「……SNSにあげろー……イ○スタにあげろー……」

従業員がお客さんを呼び込むべく施設内に思い付きで建てた神社に住み始めた神、ブンちゃんは写真を撮っているメガネの男性のそばで呪文のようにささやいていた。


ちなみにブンちゃんがどんだけ叫んでも声も聞こえないし姿も見えない。神は通常、人間には見えないのだ。


「ねー、それでいいわけー?」

近くで着物を着た小さな人形がクスクス笑っていた。


「『りぅ』か……。だってよ、今はネットだろ?」

「だからってさー、ここ少女向けの施設じゃーん。夢の施設じゃーん。そっち取り込みなよー。あの人、人形分解したり改造したりする方の人じゃん……。ほら、関節みてるー。……ねー、広める人はそっちじゃないと思うんだけどぉー」

着物の少女人形りぅはやれやれと呆れた顔をブンちゃんに向けていた。


「もうなんでもいいぜ!いねーじゃん!少女!どこいんだよ!少女!いますぐ来いよー!少女!」

「……なんか変態みたくなってますけど……?」

叫ぶブンちゃんを心配そうに眺めていたのはりぅと同じく着物を着た少女人形だった。


「あ、『きぅ』おねぇさまだわ……めんどくさい……」

りぅはあからさまに嫌な顔をしていた。


「りぅ、なぜブンちゃんは変態みたいな発言をしてるのですか?」

りぅの姉、きぅは不思議そうにりぅを見ていた。


「なんか……まあ、このレジャー施設を見ればわかるでしょ?」

「なんでしょう?」

「だから、少女が全然いないでしょ?少女を呼び込みたいんだってさー」

「だから変態じゃないですか?」

「ま、まあ変態と言えばそうっぽいけど」

「うるせーな!変態じゃねーよ!!さっきからなんだ!お前ら!」

きぅとりぅの会話にブンちゃんが割り込んで叫んだ。


「ブンちゃん。そういえば寒くないのですか?そんなコシミノ一枚で」

きぅが上半身裸のブンちゃんを不思議そうに眺めた。ブンちゃんがこんな格好をしている理由は従業員にある。この『お人形ランド!』の守り神を設定する時に皆が一斉に想像した神が南の島あたりにいそうな民族の男だった。


施設活性化のための話し合い時にテレビで民族特集がやっており、一同の目に映ったものが今のブンちゃんを形作っている。


「不思議と寒くないんだ。……これ、俺の着物なんかな……。って、嘘だ!!嫌だ!!これが霊的着物なんて俺は嫌だ!!」


神々の着物は人々が着る着物より軽く、機能的な着物であり霊的着物と呼ばれている。日本神ならば和服になるようだがブンちゃんは別のようだ。


「傷に塩ぬったんじゃない?お姉様……」

「うう……それはしみますね」

「いや、あんたの発言だけどね?」

斜め上に天然なきぅにりぅはため息をついた。


「ああ!それより、ブンちゃん、こんなお便りが届いてますよ?」

きぅは唐突に自分が来た理由を思い出したようだ。紙切れを一枚ブンちゃんに渡した。


「あ?なんだぁ?こりゃ」

ブンちゃんは唸りながら紙を受け取った。紙を見ると汚いひらがなで『お願い』が書いてあった。


内容は、

「……おねがい。

そろそろ『せつぶん』です。

おにさんがきませんように。

それと、びしゃもんてんさまにあわせてください。」


節分の事で子供が神社に参拝し、置き手紙まで用意したようだ。

汚い字に悪戦苦闘しながらなんとか読み終えたブンちゃんは頭を抱えた。


「突然毘沙門天!?鬼が来ないようにだけでよくねぇか!?あんな格式高い神呼べねぇよ!ませたガキだな!オイ!……だいたい人間には見えねーし、どんな願いをこんなメルヘンな神社にしてんだよ……。困るぜ……」

ブンちゃんはブツブツ文句を言った後、きぅとりぅに目を向ける。


「なんですか?」

「なんとかしろとか言うつもり?」

きぅは首を傾げていたがりぅはなんとなくわかったようだ。


「ご名答!ありがとう!なんとかしてくれ!こいつの心の世界に行ってなんとかしてくれ」


「はーあ……めんどくさいなー……。節分で豆まきは確か鬼を追い出すために豆をまいて毘沙門天様を呼んで鬼を退治したというお話からきてるんでしょ?それを聞いてこの子は会いたくなったんじゃない?」

りぅが呆れた顔をきぅに向けた。


「しかし……毘沙門天様も沢山いらっしゃいますよね。末廣七福神とか日本橋七福神とか、仏神の四天王様とか……ほら多聞天様とか別名で存在している毘沙門天様もいらっしゃるでしょう?どなた様を言っているのでしょうか?」

きぅは首を傾げた。


「誰でもいいんじゃない?夢で毘沙門天様に会えればいいんでしょ?どうせ人間には元がわかってないんだからその子の心に鬼を出現させてそれをカッコよく私達が倒せばいいっしょ!そんで毘沙門天様だ!助けに来てくれた!ってストーリで」

りぅはどこぞの戦隊もののようにパンチを繰り出しポーズをとった。


「それはうまくいきそうですね!」

「なんでもいいからなんとかしといてくれ!てか、この願いは何に分類される?縁結びなのか?」

ブンちゃんは頭がショート寸前でプチパニックを起こしているようだ。


「ま、まあ……私達が頑張りますから……りぅ、行きましょう!あと、妹のじぅは……?」

「あー、めんどくさい。じぅはそこそこ強いからつれていきたいわね。じぅ!どこにいるの?」

きぅとりぅは妹のじぅを探した。

「キャハハハ!」

「うひぃ!?」

ふと甲高い少女の声が響いたと思ったらブンちゃんが軽い悲鳴をあげた。


声の方を見るとブンちゃんのコシミノから笑いながら手を振っている少女がいた。


ちりめん布でできているテンガロンハットを被り、きぅ、りぅとは髪の色がだいぶん明るく西洋風にも見える。しかし、きぅ、りぅと同じく着物を着ているため、三人でまとまっている日本の人形だ。


「じぅ!そんなとこにいないで行くわよ!」

「キャハハハ!」

りぅの言葉にじぅは心底楽しそうに笑うとブンちゃんのコシミノから華麗に飛び降りてこちらに来た。


「いつからコシミノ内部にいたんだ……こいつ。まあとにかく……よろしくな」

ブンちゃんは寒気を抑えつつ社内へ帰っていった。


「じゃあ、行くわよ!このレターの持ち主の心に!めんどくさいけど!」

「おー!」

りぅがなんとなくまとめた後、手を横に広げ弐の世界、精神、霊魂の世界を開いた。

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