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最終話十二月だよ!クリスマスの夜1

ますます寒くなってきた十二月。ここ、『お人形ランド!』もクリスマスの準備でスタッフは大忙しだった。十一月に比べると格段にお客さんが増えており、やはりカップルが多い。そして雰囲気を味わうためかそこまで寒くもないのにマフラーをまく少女達と、背伸びしたのか新しいダウンコートを着た男の子達が腕を組んで歩く姿が見える。


「はっ!ガキのくせにアツいぜ!!制服でデートでもしとけっての。……お!あれ知ってるぞ。萌え袖だなァ……」

ここ、『お人形ランド!』に住む神、ブンちゃんは雪に見立てた綿があちらこちらに置かれたショッキングピンクの鳥居の前でカップルを観察中だった。


「いいな……。萌え袖。セーターがたゆんたゆんだぜ……。手を口に持ってって息を吐いてから寒いね……みたいな、な!!で、袖から微妙に指が見えんの。ははは!!ど性癖だぜ……なあ!ははは!!なんかエロいぜ!なあ!ははは!」

ブンちゃんはひとりで笑っていた。


「ふーん……」

「っ!?」

ひとりで盛り上がっているはずだったブンちゃんは返事が聞こえたのでギョッとした。


「あー、わたしだよー。みぃこー」

「みぃこか……」

ブンちゃんの前に巫女さんの格好をした手のひらサイズのドールみぃこが現れた。


「あれだねー……、最初よりだいぶん人が増えてきたねー。こりゃ、わたしのおかげだねー」

「はあ……お前はいつも邪魔してるだけじゃないか……」

「酷いなあー……萌え袖!」

みぃこは巫女衣装の袖を口元に当ててブンちゃんを上目遣いで見た。


「……やっぱかわいいよな。お前。何を間違えたんだろうな?」

「失礼なー!間違えてないよー?わたしは巫女だしー。本来ならわたしに頼るべきだよねー。他のドールなんて人間が作って人間が持ってるドールじゃないかー」

みぃこはふんと鼻をならすがブンちゃんはため息をついた。


「あのなー……、人間の願いを叶えるんだから人間よりじゃないとダメだろ?」

「あー、そうかもー」

みぃこはふむふむと納得している。しばらくどうでもいい話をしていると従業員の女性の神田さくらが鳥居の前に何かを設置し始めていた。


「……ん?なーにやってんだ?神田は」

ブンちゃんは神田の作業を見るべく鳥居に近づいた。神田は何やら貼り紙をニコニコしながらつけていた。


「ふっふふーん!ふふふーん!」

下手な鼻唄を歌いながら何かを鳥居に貼り付けて神田は去っていった。


「なんだ?……お!」

ブンちゃんは貼り紙を見て思わず声を上げた。貼り紙には『お人形ランド!』の羽織を着たかなり美化されているブンちゃんのイラストがかっこよく立っていた。神田が描いたのだろうか?趣味がかなり入っているが乙女が集まりそうなデザインだ。


かわいい文字も入っておりそこには『お人形ランド!を守る神、ブンバボンバだ。君達の願いは俺が守る。願い、待っているぞ!』


とか書いてあった。


「ほー!乙女受けしそうだなあ!信仰が集まるぞぉ!……いいぞ!神田!もっとやれー!!」

気分が良くなったブンちゃんはムフフと気味悪く笑っていた。


「ブンちゃんー、よくわかんないけどー……暇そうだねぇー」

「暇じゃない!」

のほほんと笑うみぃこにブンちゃんは鋭く言った。


「だってー……暇そう……」

「あのな、今はクリスマスシーズンでドール達フル稼働で忙しいの!」

「それってさー、私とブンちゃんが暇なだけだねー?」

「……否定はしない……」

みぃこの言葉にブンちゃんはため息をついた。


「じゃあさー、ちょっとみぃこと神田ちゃんの世界に遊びにいかなーい?」

「はあ??」

みぃこが突然にわけがわからない事を言うのでブンちゃんは声を上げてしまった。


「ほらー、神田ちゃんー、今夜早く帰って早く寝るみたいだしー」

「だからなんだよ……。用もないのになんで……」

ブンちゃんが最後まで言い終わる前にみぃこがクスクス笑いながら衝撃的な一言を発した。


「だってブンちゃんさー、神田ちゃん好きでしょー?」

「!?……??……いやいや……好きって別に好きって別にさ……」

ブンちゃんがしどろもどろしている中、みぃこはさらに続ける。


「今夜、神田ちゃんにクリスマスプレゼントとしてさー、ブンちゃんがキスやらなんやらやっとけばー?こうさー、ガッと掴んで押し倒しとけばなんとかなるっしょ?」


「……雑だな!雑だ!!そんな強姦みたいなことできるかよ!コラ!!」

呑気なみぃこにブンちゃんはため息をついた。


「とりあえずー、いこーよー」

「用がないからいかない!」


「用ならあるじゃーん、ブンちゃんがー……」

「だーかーら!お前は発想が人間離れしてるんだよ!いかない!」


「かわいそうだよー?神田ちゃーん、襲ってあげなよー」

「俺が襲いかかった方がかわいそうだろうが!意味わからん!いかない!」

こんな会話を繰り返し、夜が更けていく。


今日はドールが集まらず、ブンちゃんはずっとみぃこと意見をぶつけ合っていた。本当にしょうもない。


「じゃあさー、人間を見せてよー」

「おう!人間の心ってやつを見せてやるよ!神田の世界に行くぞ!オラ!……ってなんで神田の世界に行くことになってんだよ!!」

ブンちゃんは頭を抱えた。


「今言ったねー?」

「……たく……そんなにいきてーなら行ってやるよ!」

みぃこにてきとうにのせられブンちゃんは渋々神田の世界に行くことにした。願いもないのにほぼやけくそな判断だった。

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