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秋めいた恋2

世界に入り込んだシャイン、ムーン、リンネィの瞳には落ち葉と紅葉で埋まっている風景が浮かんでいた。


まわりは森みたいに木が多いが見通しが良くて広い。今回は人形である三人は体が大きい。人間の子供と同じくらいの大きさだ。まわりの木と比較するとなので木がミニチュアサイズならば彼女達は大きくないはずだが。


「まあ、どうでもいいから依頼主を探すわよん!」

シャインが落ち葉を踏み分けて辺りを見回す。見た感じ誰もいない。ただ、落ち葉が散っていくだけだ。


「うーん……人の気配がないでごじゃる……」

リンネィも落ち葉の上をてきとうに歩いてみるが木以外に何も確認できなかった。


「リンネィ!危ないでござい!」

リンネィの方を向いていたムーンが突然に目を見開きつつ叫んだ。


「うっ……!?」

リンネィの目の前に音もなく侍が現れ、刀で攻撃してきた。リンネィはすばやく後方に飛び、刀は横一文字にリンネィの前を通りすぎて行った。


「あ……危なかったでごじゃる……」

「待って!ムーンも危ないわん!」

シャインの声を聞いたムーンは横から突いてきた別の侍を間一髪で避ける。


「危ないでござい!!」

ムーンは冷や汗をかきながらリンネィの元に戻ってきた。気がつくと多数の侍が襲いかかってきていた。


「この侍はなんなのよん!皆二次元みたいなイケメン!?」

シャインも危なげに刀をかわしながらリンネィの元へやってきた。


「ゲームのキャラクターでござい?」

「そうみたいでごじゃる……」

三人が固まってそれぞれ不意討ちを逃れると武器を取り出した。ここは夢の世界。故になんでもできる。


「刀なら皆刀で行くでござい!」

ムーンは刀を振り回し侍達を倒していく。侍達は刀で斬られても靄のようになり死ぬことはないようだ。ただ、倒すと二次元のイケメンが苦悶の表情を浮かべるという乙女得な何かがあるようだ。

ちなみにこの謎な雰囲気は神田の世界にそっくりだが彼女達は神田の世界を知らない。


「なによん。思ったより弱いわねん?」

シャインも容赦なく侍を倒していく。人形達は人間にはない力を持った存在である。故に簡単には負けない。


「手応えないでごじゃるが……依頼主は剣術を知らぬでごじゃるなあ」

リンネィは苦笑いをした。襲いくる侍達の剣術はぐちゃぐちゃだ。時代劇の殺陣のようにあり得ない方向から斬りかかってくる。


「それより依頼主は?」

シャインがリンネィに目を向けた刹那、リンネィの後ろで人影が動いた。


「いたかもよん」

「どこでごじゃる?」

「あっちよん」

シャインが侍を蹴り飛ばしながら人影に向かって走る。リンネィも続き、ムーンは五人まとめて投げ飛ばしながら追った。


「林に入ったわよん!」

落ち葉を蹴散らして走り、林に三人は勢いよく飛び込んだ。


「あっ……」

「え……」

林に入ると女が男を押し倒していた。女は学生服で男は袴を着ている。男の着物ははだけて少しだけセクシーであった。

馬乗りになっている女は男に被さりささやく。


「もう好き好き!耳なめちゃおうかなー、キスしちゃおうかなー?それともぉ……」

「ま、待って!そこは……」

男は顔を真っ赤にしながら女を見上げていた。


「……えー、見ちゃいけないやつ?」

「見ちゃいけないやつでごじゃるな」

シャインとリンネィは後退りするがムーンが引き止めた。


「あの男の子、嫌がってるでござい。助けるでござーい!」

「嫌がってるかしらん……?」

ムーンがうるさいのでリンネィとシャインは堂々と邪魔に入った。

女を男から引き離す。


「あんたら!何すんのよ!」

女からドスの利いた声が発せられた。男はそそくさとムーンの影に隠れる。


「嫌がってるでござい!」

ムーンが女を睨み付けると女も睨み返してきた。

「あんたもゆう君が好きなのね!覚悟ォ!!」

なぜか女は恋敵のように言うと刀を振りかぶってきた。刀はどこにあったのか?

「上等!上等でござい」

ムーンは挑発すると刀を構えた。


「ちょ……ムーンさーん……」

「シャイン、見守るでごじゃる。あの女の子は依頼主。で、あの男の子は好きな子。好きな子を自分の世界で作り出して遊んでいただけでごじゃる」

「じゃあ止めないとダメなんじゃないのん?」

シャインの疑問にリンネィはあくびをしながら答えた。

「大丈夫。ガーン!と真っ直ぐにぶつかることに気がつけば上手くいくでごじゃるよ」

「ほぅー」

リンネィの言葉に頷いたシャインはムーンと女の子の戦いを黙って見始めた。ここは女の子の世界なのでおそらく彼女が一番強い。


刀を打ち合わせて右に左に凪いで袈裟に斬ってを繰り返している内にムーンが折れた。


「はー!強いでござーい……もう無理……」

啖呵(たんか)切った割には大したことないわね。でも……わかった気がする。こうやって妄想してるだけじゃダメ」

女の子は倒れたムーンに決意の眼差しを向け、つぶやいた。リンネィとシャインが「そうそう!」と頷いていた刹那、男の子が唐突に分裂し増殖した。分裂、分裂、分裂……。


「……は?」


リンネィ達はわけがわからず目をパチクリさせている。


「なんか……増えて……」

「じゃーん……みぃこがたくさん増やしてみましたー。いかがぁ?紅葉狩りみたいにゆう君狩りをしてみようー!」

戸惑う三人の前に巫女の格好をしたドール、みぃこがくすくす笑いながら現れた。


「あー!みぃこでござい!」

「よけーなことしないでよん!!」

「増やしたら気持ち悪いでごじゃる……」

ムーンとシャイン、リンネィがそれぞれみぃこに文句を言う。


「えー……沢山ハントして自信になればさー、勇気も出ると思ったんだけどー」

ちなみに前々から記述しているがみぃこは個人の世界内のものなら自由に操れる特殊能力がある。今回も男の子の方を能力で増やしたようだ。


「みてみて!五人捕まえた!」

なんだか金魚すくいをやっているかのように嬉々とした声を上げる依頼主の女の子。女の子の傍らには縛られた男の子が多数転がっていた。皆めそめそと泣いている。


「まだまだいくよ!なんか自信出てきた!」

女の子の方向性は不明だが先程の襲ってきた侍が皆彼になっているのを彼女は疑問に思っていないようだ。


「よっしゃ!十五匹捕まえた!」

「……人の扱いじゃなくなっている!!現実世界でこれ見たら男の子は泣くでごじゃるな……」

リンネィはため息をつきながら駆け回っている女の子に目を向ける。なんだかすごく楽しそうだ。


「なんか……楽しそうだわねん……」

「私もやるでござーい!」

シャインは呆れていたがムーンは嬉々とした表情で男の子を捕まえに行った。


「収集つかなくなったでごじゃる……」

「ねぇー、紅葉狩りってさぁ、狩りみたいなもんさー。紅葉見ながら男をハンティングが正解ー!」

みぃこが呑気に言うのでリンネィは頭を抱えた。


「あれは確か『お花を摘みに行ってきます』が『トイレ』と同じ感覚だったはずでごじゃる……。平安貴族達のシャレでごじゃった……」

「なんとー……。違ったのかー。では……退散!」

みぃこは女の子の状態に満足すると笑顔で去っていった。


「あ……世界が……」

シャインが疲れた顔で空を見上げた。美しい秋晴れだったが黒い宇宙が見え隠れしている。


「……帰るでごじゃる……」

「ムーン!帰るわよん!」

シャインの呼びかけに五十人近くの男の子を捕まえていたムーンは満足そうに戻ってきた。

「帰るでござーい!」

「最後に……そこの少女!!現実でそれはやっちゃダメでごじゃる!!夢の中だけにせよ!」

リンネィは必死に叫んだ。


「……わかってる。ちゃんと告白するね」

女の子は笑顔でこちらに手を振った。

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