海に行きたい!1
暑い暑い八月がすぐに来た。
澄んだ青空に白い大きな入道雲。
せっかくの夏休み期間だというのにレジャー施設『お人形ランド!』には子供がほとんどいない。
「だよなー……。皆、海とかキャンプとか行くもんなー……。人形展示の施設なんて来ないよなー……」
この『お人形ランド!』で従業員から祈られて生まれた男神、ブンちゃんは季節に合ったコシミノ一枚という格好で賽銭箱に腰をかけていた。
「ま、この賽銭箱も今じゃお願いボックスとかになっちまってるし、世知辛いなあ……」
賽銭箱はダンボールで作った従業員の手作りなので『さいせんばこ』とひらがなで書いてある。漢字で書けなかったようだ。
下の方に子供にわかりやすくするためか『お願いボックス』と付け加えられていた。
「……お願いボックス……じゃねーんだよ……もー……」
ブンちゃんは扇子で扇ぎながらため息をついた。
「なーんかさ、そーやってると超アンバランスー」
ふと下の方から声がした。
下から声が聞こえる時はだいたいドールだ。
ブンちゃんが足元を見ると案の定、ドールだった。銀髪の長い髪の少女ドールだ。
「あー、はーちゃんか。なにがアンバランス?」
「コシミノと扇子ー」
「ああ……俺、一応日本神だからな。忘れないでくれ……」
銀髪少女ドールはーちゃんはまったりとした笑みで少し傷ついたブンちゃんを見ていた。
「あー、暇だー」
「お前、いつも一緒のメイちゃんどうした?」
ブンちゃんがはーちゃんに声をかけた刹那、頭の上からワチャワチャした声が聞こえた。
「聞いてくださいよ!!今回もなかなかいい願いなんです!!」
「ひぃ!?」
ブンちゃんの悲鳴にはーちゃんは笑いながらブンちゃんの頭を指差した。
「そこー」
「なんだ!?なんだ!?」
ブンちゃんが慌てていると頭から茶色の長髪の少女ドールがひらりと舞い降りた。
「メイちゃんですぅ!!!今回のお願いはですね……」
「ま、待て待て!少し落ち着かせてくれ……。頭から急にデカイ声が聞こえたからビビりまくりでわけわかんねぇ!」
ブンちゃんはビビりながらもとりあえず深呼吸をした。
「メイちゃんー、元気だねー」
はーちゃんがメイちゃんにのんびり手を振った。
「もういいですか!!少し待ちました!!」
メイちゃんははーちゃんに軽く手を振るとブンちゃんに詰め寄ってきた。
「あ……ああ……す、少し待ってくれたな……。あ、ありがとう……」
ブンちゃんが口角をぴくつかせながらはにかんでいると話が勝手に進みはじめた。
「では!!一枚だけ入っていたお願いに移りましょう!!……八月の台風により海に行けなくなりそうな少年からのお願いです!!」
「……あー、もうわかるわ。あれだろ?晴れにしろとか海に行かせろとかそういうんだろ?」
ブンちゃんのてきとうな返答にメイちゃんは目を見開かせた。
「その通りです!当たり!!すごいですね!!」
「いや……すごいっていうか……」
「これー、どうやって叶えるー?雨風呼ぶ龍神さんにー交渉するー?」
はーちゃんの言葉にブンちゃんは首を激しく振った。
「ムリムリ!龍神怖いもん!!」
「えー……」
即答のブンちゃんにはーちゃんはため息をついた。
「では!!夢で結論をなんとかつけましょうか!!」
メイちゃんは腰に手を当てると鼻息荒く叫んだ。
「どうするつもりだよ……」
「……わかりません!!」
「……だと思ったぜ」
メイちゃんの反応でブンちゃんは再び深いため息をついた。
「まー、とりあえずーいくー?」
「行きます!!」
はーちゃんの呑気な発言にメイちゃんは自信満々に答えた。
「おいおい……計画性ねーな……」
ブンちゃんが呆れる中、なぜか自信満々な二人はすぐさま心の世界を開き、入っていった。
「おいおい!なんも決まってねーぞ!!マジで大丈夫か……あいつら……」
ブンちゃんはこのチームが一番心配であった。