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七夕花火大会2

「さて、世界を開くでござーい!」

ムーンが手を前にかざし、障子扉を開けるパントマイムをした。

すると本当に障子扉が突然に現れ、扉の奥に不思議な世界が広がっていた。


「あれがお父様かお母様の心ねん!」

シャインはムーンとリンネィを促して世界へ入り込んだ。


「ほー……」

世界に入り込んだらリンネィが変な声を上げた。


「変な声をあげないでちょーだいっ!」

シャインが鼻息荒くリンネィに言う。

「まあまあ、でもほーって言いたくなるのわかるでございー」

ムーンは辺りを見回しながら呟いた。


幻想的な世界だった。

夜の世界だが暗いわけではなくホタルが飛んでいたり見たことのない光る花が自生していたり星が輝いていたりする明るい世界だ。


「きれいでごじゃる。住んじゃうのはいかが?」

リンネィはほのぼのと光る花を眺めていた。

「いやいや、世界の持ち主、探すわよん!」

シャインはパンパン手を叩き、座り込んだリンネィを立たせた。


現在、人形の彼らは人形の大きさのままである。世界によっては人間と同じ大きさになったりする。


「虫はホタルしかいないでござい!」

「そんな分析いらないわん!」

ムーンが茂みを掻き分けながら虫を探しているので虫が苦手なシャインは悲鳴を上げながら止めた。


しばらく茂みを歩くと川辺に出た。ここにもホタルが飛んでいる。

川辺には魚などはおらず、石も砂もキラキラ光っているだけだった。


「おお!ヒカリゴケでごじゃる!」

「あら、きれいだわねん」

リンネィとシャインは初めて見るヒカリゴケに感動の眼差しを向けた。


「いやー、なんかキラキラ光っててきれいでございー」

ムーンも幻想世界に癒され近くの光る石に腰かけた。

そしてだんだんと目的を忘れていった。


しばらくのんびりしているといつの間にか目の前に男女のカップルが座っていた。

そのカップルを眺めながらシャインは小さくつぶやいた。


「ねぇ、なーんか忘れてないかしらん……」

シャインに問われリンネィが慌てて答えた。


「忘れとる!忘れとる!なんでこの世界に入ったのか忘れとるでごじゃる!」

「ああー」

リンネィの言葉に一同は一斉に声を上げた。


「あつあつひゅーひゅーカップルがいるでござーい!」

ムーンがほがらかな顔で盛り上がりながら叫んだ。


「世界の持ち主じゃないかしらん?」

シャインが小声で様子をうかがった刹那、男女がこちらを向いた。


「あら、人形がいる」

女がシャイン達を見てそうつぶやいた。夢の中なので人形が動く事に抵抗がないらしい。


「ほんとだ。かわいい。まーちゃんのお人形?」

「いや、まーちゃんはまだ一歳だから人形は与えてないわ。食べちゃうでしょー」

男女は楽しそうにドール達を眺めていた。

まーちゃんというのが今回花火の絵を投げ入れた本人のようだ。


「まだ早いなんて……まあ、人形は早いかしらねん……。でも花火は早くないんじゃないかしらん?」

シャインは男女に微笑みながら尋ねた。


「そうかな。びっくりして大泣きだと思うんだけど」

女は苦笑いしながら答えた。


「一回見せに行ったらどうでごじゃるか?」

「人が多くてびっくりしちゃうし、音で泣いちゃうし、離乳食とか時間とかタイミング合わせるの大変だし、オムツ変えられるところとかも探さないと……正直、見ているどころじゃないわよ」

女は軽く笑った。

なかなか意見が固い。

まあ、気持ちはわからなくもない。しかし、彼女達はここで退けなかった。


「どう話したら納得いくかしらん……」

「一発小突いてみて頭を揺すってみるでごじゃるか?」

「なんで!?」

リンネィの言葉にシャインはすぐに突っ込みを入れた。


「まあ、そっちのが考え変わるかもでござい!古い考えがポーンって出てくかも……」

「じ、じゃあ……やってみるかしらん?」

ムーンもやる気満々だったのでシャインもあり得ない選択をした。

三人が小さいながらもそろそろと近づいていると上空に突然大きなイルカが現れた。


「ん!?」

「はあ!?」

シャイン達は戸惑いの声でそれぞれ叫んだ。


「ちょ……意味わかんないわよん!!」

「この幻想世界になぜ空飛ぶイルカ……」

ムーンが言葉を失いつつ気持ち良さそうに泳ぐイルカを眺めた。


イルカの上に誰かいる……。


「……あ、赤ちゃんがいるわよん!!」

シャインはイルカを指差しながら叫んだ。赤ちゃんはお座りして楽しそうに手を叩いていた。


「ちょ……もしかして……依頼主さんでごじゃるか……」

リンネィがつぶやいた刹那、光の玉が大量に弾けた。


「うぇあ!?」

その花火にも見える光の玉は火の粉となり上空から大量に落下してきた。


「やばーい!やばーい!でござい!!」

ムーンが悲鳴を上げながら水の弾を出現させ一つ一つ消化を試みた。

ここは夢の中、なんでもアリだ。


「はーいー、続きましてーぼーたーんー」

イルカから呑気な声が聞こえた。

赤ちゃんはきゃっきゃと笑っている。


「なんでごじゃる?今の声……」

疑問に思っている暇はなく、今度は赤い光の玉が無数に弾けた。


「あのイルカをなんとかしないとダメだわよん!!」

シャインが焦っている間にも花火によく似た光の玉は無数に落ちてくる。


「ぼーたーんのー連打ー!かーらーのー、千輪ー!かーらーのー菊ー、柳ー!いえーいー!」

イルカが声を発しているのかわからないが掛け声と共に大量の火の粉が降り注ぐ。

しかもちゃんと花火になってきている。


「あ!!赤ちゃんでもイルカでもないわよん!上にドールがいるわん!!」

シャインは水鉄砲で火の粉を打ち落としながら叫んだ。


「ドール!?」

ムーンとリンネィもそれぞれ火の粉を払いながらイルカを眺めた。


よく見るとイルカの口の先端に巫女の格好をした黒髪のドールがのんびり指揮者のように手を振って花火を操作していた。


「ほんとでごじゃる……。仕方ない!あの赤ちゃんはあの赤ちゃんの世界に転送するでごじゃる!」

「私たち三人の特殊能力、瞬間移動だわねん?」

「あれでござーい!」

三人は臨戦態勢になった。


「どーん!どーん!すたーまーいーん!!」

「うわああ!?」

巫女ドールが手をあげると地面から花火が吹き上がった。スターマインだ。


「あちち!!ほら!あんた達も水鉄砲だわよん!」

シャインの声かけでムーンとリンネィは慌てて水鉄砲を出現させた。シャインは普通な水鉄砲、ムーンは水がホースのように出るタイプ、リンネィはシャワータイプだ。


花火は途切れる事なく上から下から攻めてくる。

ちなみにあの男女はイルカの上にいる赤ちゃんに呑気にも手を振っていた。


「近づけないでございー!」

「てか対象を三角形に囲まないと瞬間移動させられないでごじゃる!」

「頑張って囲むわよん!きゃあー!」

一番意気込んでいたシャインが突然かわいらしい声を上げた。


「なんでごじゃる……今の黄色すぎな声は……」

「火の粉飛んできたわーん!服が燃えちゃう☆」

シャインはウィンクしつつスカートの端を少し持って謎のポーズを取った。


「そんな恥じらいのある燃えかたしないでごじゃる!」

「火だるまでござい……」

リンネィとムーンが乗り気ではなかったのでシャインは頬を膨らませて火の粉を水鉄砲で打ち始めた。

いくら沈下してもいくらでも花火を打ってくる。


「はあはあ……もう捨て身で三人同時に飛んで三角形作って飛ばすのが早いでごじゃる!」

リンネィの発言にムーンはため息混じりに頷いた。


「あー、燃えたくないでございー……」

「萌えたいけどねん……」

一同ため息をついたが覚悟を決めて飛び上がった。


「やーあ!!」

なんでだかわからないが自動追尾になっている花火を水鉄砲で沈下させながらイルカの前まで飛んだ。


「みんな!いったかしらん?」

「来たでござい!」

「ごじゃる!」

三角形になる部分でそれぞれ息を止めると掛け声を上げた。


「せーの!」

掛け声と同時に手を前にかざす。

イルカの下に魔方陣が現れ、イルカは赤ちゃんと共に赤ちゃんの心、元の世界へ転送された。


「うわー、やーらーれーたー」

巫女ドールは華麗にイルカから飛び降りると地面に足をつけた。


「はあはあ……」

同じく地面に足をつけたシャイン、ムーン、リンネィは肩で息をしながら膝をついた。


「ややこしくしないでよん!そこのあんたー!」

シャインが巫女さんドールを指差し叫んだ。


「いやあー……そんなつもりはー……。赤ちゃんの願いをー叶えたのー。あー、私はねー、みぃこだよー」

間延びした声で巫女さんドール、みぃこが一礼をしてきた。


「……願いを叶えたって……花火が観たいっていうあれでごじゃるか?」

リンネィは汗を拭いながら尋ねた。


「そうそうー」

「……今回……どう転ぶかわからんでござい……」

みぃこの返答にムーンは青い顔でつぶやいた。

なんというか皆で暴れただけだ。解決になったかどうか……。


人の心に触れなければ夢として処理されてしまうので記憶に残らないのだ。


一同が焦っていると男女がなにか話していた。


「あれ?まーちゃん、いなくなっちゃったねー」

「そうだねー。花火を楽しそうに観ていたわ。海辺でやる七夕の花火大会に行こうかな……。ちょうど土日だし、近くの宿に止まって一泊二日の海の旅もいいわね」

「家族サービスいいなー!頑張るよ!」

なんだかプラスの会話になっていた。


「だ、大丈夫そう……かしらん?」

シャインがうかがうように眺めた刹那、世界が崩れ始めた。


「あわわ……!世界がなくなるでござい!めざめちゃうでござーい!」

「帰るわよん!!」

「か、帰るでごじゃる!」

三人は慌てながらブンちゃんの社に続く道を繋いだ。

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