七夕花火大会1
ジメジメした暑さが襲う今年の七月。
お人形展示のレジャー施設『お人形ランド!』では七夕に追われていた。従業員達が大きな笹をブンちゃんの神社前に飾る。
従業員達がブンちゃんのために作った手作りの鳥居が笹により今にも倒れそうだ。
今は七月二日。
これから来場者に短冊を書いてこの笹にかけてもらうイベントが始まる。
しかし、隣で見ていたブンちゃんは不服そうだった。
ちなみに例え従業員から祈られてできた神様でも人間の目には映らないし声も聞こえない。
「あーあー、七夕は俺の祈りにならないんだよなあ……。アマノワカヒコサマとかアヂスキタカヒコネサマとかが関係するじゃんかー……。俺、よくわかんねーけど。俺は関係ないし……。暇になるか?どうしよ??」
「でっさー、賽銭箱の中に一枚お願いあるでござい?」
「ん?誰だ?」
さも当然のように誰かが話しかけてきた。
「ああ、こっち、こっち!失礼したでっさい!」
ブンちゃんが声の聞こえた方を向くと小さい少女人形がかわいらしく手を振っていた。手のひらサイズのお人形だ。
髪の毛はパーマがかかっているのかあちらこちら巻き毛のショートで目はおっとりしている。
市販品ではない手作りのスカートにシャツを着ていた。
持ち主が縫ってあげたのか?
「えー……と。誰よ?」
「ムーンでござい!」
「雰囲気に似合わずじじくさいな……」
「最近のブームでござい!」
少女人形ムーンは元気に答えた。
「ムーンって名前ってことは……」
「はいはーい!私、シャインよん!よろしくねん!」
いつの間にかもうひとり少女人形が増えていた。青いワンピースにカールのかかった長い金髪、青い瞳。日本でアレンジされたフランス人形という感じだ。
目はパッチリでムーンとは真逆だ。
「で……なに?」
ブンちゃんは毎回癖の強いドール達に戸惑ってばかりだ。
「えーと、もうひとり待っていいかしらん?」
シャインがアニメなどで出てくるどこぞのマダム的な話し方でブンちゃんに詰め寄った。
「ど、どうぞ……。てかこいつら、なにかぶれなんだよ……」
ブンちゃんが小さく突っ込んでいると「おまたせしましたでごじゃる」とまたも普段使いしなそうな言葉を発する少女人形が現れた。
今度は巻き髪の長い黒髪に赤い着物という和風な風貌でキリッと強い目をしたドールだった。
ムーン、シャインと同じシリーズのドールのようだ。
「えー……。太陽と月だから……真ん中はなんだ?曇り?クラウディ?レイン?スノーか?」
ブンちゃんが色々と候補を上げるが少女人形はにんまり笑ってこう答えた。
「リンネィ!でごじゃる!」
「全然違った……。ムーン、シャイン関係ねぇな……」
「月と太陽を結ぶ輪廻!でごじゃるよ」
「こじつけかよ……。まあ、いいや。で?」
ブンちゃんはため息をつきながら本題へ入った。
「一枚だけ賽銭箱にお願い、入ってたでござい!」
ムーンが一枚の紙をひらひら揺すった。ノートの切れ端のようだ。
「なんだ?」
「花火が観たいっぽいでござい」
「観に行けばいいじゃねぇか……」
「それが一歳の子供なのよん」
「はあ??」
シャインがブンちゃんに紙を渡した。紙には文字は書かれておらずクレヨンで線がぐちゃぐちゃに描かれていた。明らかに落書きだ。
いや、一歳の子供でこんなに描けるのはすごいかもしれない。
「ほー……」
ブンちゃんは花火には見えないそのグシャグシャ線を黙って見つめた。
神々は想いのデータを読むことができる。文字が書けなくても何かしら想いがあれば読み取れるのだ。
「ほんとだ。花火?どこで花火を知ったんだ?この子供。この絵は花火をイメージしているらしいことはわかったが花火という言葉は知らないようだな」
「こないだ大きな花火大会の中継をテレビでやってたでごじゃる。映像は去年のやつでこじゃったが」
リンネィの言葉にブンちゃんはまた「ふむ」と頷いた。
「……見ての通り、七夕の笹飾りで神社が潰れそうだ」
「だから?」
「お前ら、ちょいと願いを叶えてきてくれ。母親か父親の世界に入って花火大会に行きたいと思わせればいいだろ」
「了解でござい」
「お仕事だわん~」
「おつとめを果たすでごじゃる!」
ムーン達はなんだか楽しそうにスキップで去っていった。
「はあ……頑張れよ!……てか、笹がデカイ上に飾りつけすぎなんだよ!ジャングルみたいじゃねぇか……。しかもユラユラあぶねー!」
ブンちゃんは頭を抱えて神社にもたれかかる笹を困った顔で見据えた。