ブンバボンバの神?
『お人形ランド!』
そういう名前の少女向けエンタメ施設があった。
「くそ……経営不振だ!なにがいけない?イケイケでキラキラな女の子に寄り添ったお人形の国だぞ!」
この『お人形ランド!』を作った中年の男性社長は頭を悩ませていた。社員を社長室に集めて傾く会社をもとに戻そうと絶賛会議中だ。
「社長、もっと少女に寄り添ってください。ドールの展示だけだとオカルト人形館のようで少女は来ませんよ」
「少女の気持ちがわからない……」
女性社員に社長はうなだれながら答えた。ちなみに従業員は三人しかいない寂しいレジャー施設である。
頭を抱えているとなんとなくつけていたテレビからひときわ楽しそうな番組が流れた。
『ブンバボーレ・アミーという神様はこの民族にはとても大切な神様です。ブンバボーレ・アミーに感謝するためいつもお祭りを開催中!陽気な民族を取材!』
楽しい楽曲とともにどこかの民族が愉快に踊っている。
「あ……」
社長含め社員三人は同時に声をあげた。
「これだ!!!」
※※
「なーにが『これだ!!』だよ」
『お人形ランド!』の展示物を抜けた先で謎の鳥居が建っていた。ひとりの青年が鳥居に背を預けながら悪態をついた。
青年の風貌は明らかにゆめかわなこの施設とはかけ離れている。
「俺はこんなてきとーな人間の祈りから生まれてしまったのか!ちきしょー!!」
どこか南の島の神様にいそうな格好をしている青年はうなだれながら叫んだ。髪はいい感じにボサボサで服はコシミノのみ。顔に民族っぽいペイントをしており、民族的な柄の布を肩に一枚かけていた。雰囲気は日本の神とはかけ離れている。
鳥居横にかわいいポップな看板。
そこには『お人形ランド!の守り神!ブンバボンバだよ!皆よろしくね!ちなみに縁結びだよ!気になる子の恋愛を占っちゃお!おみくじはこちら!』
と書いてある。
「俺はロックな方面にいきたかった!なんだよ!ぶんばぼんばって意味わかんねーよ!鳥居のイメージとかけ離れてるし、もっとこう……大和な神の名前が良かったよ!うえーん」
ちなみにこんなに叫んでいるのにまばらにいるお客さんは見向きもしない。
彼は神だ。神は通常人間の目には映らない。
しかし、人間の祈りで神は簡単に出現する。つまり、彼は客を呼び込むために従業員、社長から祈られた欲まみれな神様なのだった。
「あーあ。なんでどっかの神様のパクりみたいな風貌なんだろね。しかも少女向けゆめかわ施設なら女神を想像しろよ。なんでたまたまテレビに映った民族の男のイメージなんだよ」
男の文句は終わらない。
神は人間のイメージのまま生まれる。ここに鳥居を建て人間達が神の風貌をイメージした時からそこに神は現れる。
そして知っている者がいなくなれば神は消えるのだ。
彼は従業員と社長の経営回復の祈りから造られ生まれた神様だった。かなり邪である。
だが、人間達に悪気はない。本当に助けてほしかったのだ。
ならば守り神としてやることはここに最強の神がいることを知らしめて信仰を増やすことなのだ。
それでお客さんを増やす。
「なんだけどなあー。変な効果がプラスされてやがる……。なんで突然縁結びにしたのかわからん。縁結びなんてやったことないぞ……」
「ブンバボンバ様、本日の書類でございます」
「あ……」
目線を声のした方に向けると手のひらサイズのかわいらしい三つあみの少女人形が大量のデータ情報を男、ブンバボンバの頭に流していた。
少女人形はメイドさんの格好をしており、名前を宮子さんと言う。
文字通り彼のメイドさんであった。
「というか秘書だな。あんたは」
「しっかり目を通しておいてくださいね。大量のデータを送りましたから」
宮子さんはブンバボンバの言葉を軽く流すと神社内の掃除を始めた。神社といっても従業員達がプラスチックやら段ボールやらで作った小屋があるだけだ。
後、木を組み合わせ従業員がショッキングピンクに塗った鳥居。
「はあー……意外におみくじ作戦は成功ってか?最近は女の子が増えた気がするな」
「増えてくれないと困ります。私達、人形も人間の心を映す鏡であり拠り所なのです」
宮子さんは雑巾かけをしながら鼻息荒く頷いた。
「しかし、こんなに叶えられるかよ……。俺は正当に生まれてないから神力はそんなにないし……。あ!そーだ!!おい、宮子さん、叶えられそうなやつはあんたらドール達がやってくれないか?」
ブンバボンバは手を合わせて宮子さんに頭を下げた。
「神様が人形に祈るとはどういう心境なんでしょうか……。花子さんに見られていたら笑われてましたよ」
宮子さんが呆れた声をあげた時、突然笑い声が聞こえた。
「あっはははー!おもしろいわ!さいっこう!!」
「見られていたな……はあ……」
ブンバボンバがため息をつくと宮子さんと同じくらいの大きさの金髪蒼眼の少女が大笑いしながら鳥居の影から顔を出した。
「花子さん、ブンバボンバ様がお困りのようですが……」
「もうそのブンバボンバがウケる!変な名前!ブンちゃんでいいよね?」
花子さんは勝手に彼をブンちゃんと命名した。
「なんでもいいが……お願いだからこの半分の処理をしてくれ。頼む!もうこの際だからお前らの他に雪子とか桜子とか友達のきぅ、りぅ、じぅだとか誰でもいい。ドールを総動員してなんとかするんだ!いいな!それと、誰にも見つかるなよ」
「他の神には頼らないの?縁結びなら他の縁結びの神に頼るとかは?」
花子さんの発言にブンバボンバ、ブンちゃんは頭を抱えた。
「プライドが許さない。絶対バカにされる……。ブンバボンバ之神とかカッコよく言ってもカッコ良くないもん……」
ブンちゃんはしゅんと顔を曇らせると膝小僧を抱えて隅っこに行ってしまった。
「あちゃー……こりゃけっこう重症だわね」
「わかりました。私達で解決を目指します。ブンバボンバ様は難しい信仰の処理をお願いします」
呆れた花子さんの声に被せるように宮子さんが了承した。
「おう。それでも俺、がんばる……がんばるんば……がんばるんばぼん」
ブンちゃんは半泣きで頷くと社内の霊的空間に帰っていった。
一応、社内は霊的空間が開けた。人間から見ると普通の小屋だが神が開くと生活居住区域になる。
ブンちゃんの部屋は畳のワンルーム、キッチン付きであった。
「ブンバボンバ様に代わり私達ドールがなんとかしましょう。皆を集めてください」
宮子さんは花子さんにため息混じりに命じた。
「はーい。じゃあとりあえず集めるね」
花子さんは楽しそうに返事をした。