アジサイと点滴1
雨が降っている。
ジメジメとしているからアジサイがきれいに見える……そんな六月。
ここ、「お人形ランド!」でも湿気が深刻だった。
「あー!!鳥居にコケ!?」
神社前を掃除していたブンちゃんは悲鳴をあげた。
鳥居はしっかりしたものではなく、従業員の手作りである。
お人形が並んでいるエンタメ施設で湿気は一番の敵だ。
「どうしました? 鶏みたいな声出して……」
自称ブンちゃんの秘書である三つあみの少女人形、宮子さんが賽銭箱に投げ入れられていた「お願い事」の紙を拾い集めながら尋ねた。
「いや……コケって鶏じゃなくて……」
「それよりも厄介なお願いが来ています。転送しますね」
「……いや……聞いてよ!?」
ブンちゃんの叫びもむなしく宮子さんは話始めた。
「入院するものです。両親がなかなか来てくれません。愛されてないのかな?神様教えて!との事。小児病棟で現在入院している子供のようですが……なんでここに?」
宮子さんは首をひねったがブンちゃんは思い出したように手を叩いた。
「ああ!それな、手紙を同級生がここに入れたんだよ。近くの神社がわからなかったみたいでここに入れてった……」
「ああ、なるほど……。大雨の中、わざわざ……この子の願い、気になりますね。愛されてないわけないと思いますが……」
「いそがしーんだろ。親だって仕事してんかもしれないしな」
ブンちゃんは寂しそうにコケを布で擦っていた。
「子供はそれがわからないですからね」
宮子さんは無理やりブンちゃんにテレパシーで「お願い」のデータを送る。
「……宮子さん、なんとかしてくれないか?俺はちょっと忙しくて……」
コケをゴシゴシ強く擦りながらブンちゃんは宮子さんに頭を下げた。
「わかりました。花子さんと桜子さんと行きますね」
「あー、ブンちゃん!社にキノコ生えてるよ!めっちゃウケる!!」
金髪青い目の花子さんがかわいらしい顔をシワだらけにして笑っていた。
「キノコ!?」
ブンちゃんは慌てて社付近に近寄った。室内なのに雨が降っている。
「雨漏りしてんじゃん!!管理しろよー!もー!」
「キノコ……これは……シメジ?」
叫びっぱなしのブンちゃんの横にしゃがみこんでいたのは黒い短髪ドール、桜子さん。
「シメジメジメ……シメジメジメ……ぷっ……くくっ……」
ジメジメしているからシメジが生えたと言いたかったようだが何やらツボにハマったようだ。
「うるせーなあ……もー……早く行けよ……もー……」
「牛になった。鶏もいるし……牧場だ!キノコ栽培してる牧場」
桜子さんはとりあえず深く頷いていた。
「なんかブンちゃん忙しそーだから、うちらで行こ !」
花子さんがさっさと空間を出した。