五月人形の勇ましさ3
なんだかんだあって再びブンちゃんの社前に戻ってきた。
「……もう解決したんだよね?」
「したんじゃねーか?帰ってきちゃったぜ?」
ロクとイチは同時に首を傾げた。
当たり前だ。彼らは何もやっていない。
「では、俺はこれで」
平次郎は戻るなり羽織をなびかせて去っていった。
「おー!あいつかっけーなァ!!見たか!背中で語ったぞ!」
「真の強さは顔が強そうかじゃなくて背中からのオーラか」
イチは興奮ぎみにロクは静かに大きく頷いた。
「あー、おかえり。なんか上手くいったみたいだな?」
声を聞きつけブンちゃんが社から出てきた。
「上手くいった?マジか!なんかわかんねーけどやったー!!」
「……兄貴は盗賊をぶっ飛ばしていただけだけど」
喜ぶイチにロクは冷めた声でつぶやいた。
「なに言ってんだよ!お前なんか結界張ってぼーっとしやがって!」
「あー、はいはい。やめやめ!喧嘩はやめなさい」
ふたりが喧嘩を始めそうだったのでブンちゃんは慌てて止めた。
「ブン様!」
「ブンちゃん!」
「な、なんだよ……」
突然、ロクとイチから睨まれたブンちゃんは顔をひきつらせて後退りを始めた。
「どっちが強い?」
「はい?」
「だからどっちがつえーか聞いてんの!」
「し、しらねーよぉ……」
戸惑うブンちゃんをよそにイチとロクはお互いの強さを喧嘩腰に語り合い始めた。
「……どうでもいいから外でやれよ……うるせー……」
ブンちゃんは呆れた顔で頭をポリポリかくと社内へ引っ込んでいった。
※※
「強之助ー!ごはん!いつまで寝てるの!」
ママの声で俺は目覚めた。
おかしいな?目覚ましかけたのに。
俺は布団の端に置いておいた目覚まし時計を見る。朝の七時半。
昨日はかっこよさについて考えていたらそのまま寝たみたいだ。
なんかダサいな……。
そもそもかっこよさを考え始めたのは二週間前。友達から「お前、名前とは全然違うな。強そうな顔じゃねーし!あはは!」と冗談で笑われた時からだった。
強そうな感じイコールかっこいい!じっちゃんがみてる時代劇に出ている主人公は皆強かった。ひとりで何十人の悪党を倒していくんだ。かっこいいじゃないか!
ふと、五月になるといつも飾られる人形と兜を思い出した。
勇ましい顔の人形、かっこいい兜。前は変身したらおもしろいのに程度しか考えてなかったがかっこいいじゃん!ってなった。
同時に自分が強いイコールかっこいいになるためには顔から変えていかないとと思った。そもそも友達から顔が強くなさそうだと言われたのだ。顔から強くなろうじゃないかと決意した。
そんで……ねぇちゃんに連れられてあの人形ばかりの施設で退屈してた時に『お願いボックス』を見つけた。神社みたいだったけど賽銭箱じゃなくていいのかと眉を寄せて怪しんでいたがまわりに誰もいなかったからてきとうに願いを投げ入れてみたんだ。
そしたら……まさかの。
変な夢みたし。
心でモヤモヤしてたパパのことまでスッキリした。
あんまり覚えてないけどかっこよさは内面と外面をあわせ持つのがいいと。そんで内面、外面両方のかっこよさを磨けば強そうな顔になる!!
あー!スッキリだ!
俺も頑張ろう!
まず、剣術を……
「聞いてんのー!ごはん!!あんた今日学校でしょー!!!」
「はーい!」
ママの声が鋭くなってきたので怒らせない内に布団から出ることにした。
あの後、パパも寝ていたみたいでママに叩き起こされていた。
「ゴールデンウィークは終わったの!シャッキリしなさい!!!子供と同じ時間にあんたが起きてどうすんのよ!!!仕事でしょ!!!」
パパが本当に強くてかっこいいかはわからなくなったけど、もういいや。
とりあえず、神様が願いを叶えてくれたって事で?
「ありがと!」