五月人形の勇ましさ1
五月になった。世の中はゴールデンウィークである。ちなみになんと十連休。人々は忙しなく遊びの計画をたてているようだ。
初夏の風が通りすぎるそんな中、レジャー施設『お人形ランド!』は閑散としていた。春の風ではなく木枯らしが吹いているような気もする。
「子供の日だぞ!五月人形もあるのになぜ!なぜガラガラ?」
コシミノ一枚の神様、ブンちゃんは頭をワシワシかき回していた。
「なぜだろーねー?あー、ブン様、オモチャのゆのみと柏餅よろしく」
ブンちゃんの社内のちゃぶ台にちょこんと座っているのは銀髪で連獅子のような髪型の少年ドールだった。手のひらサイズしかない彼はやたらと態度が大きかった。
「あー?自分で持ってこいよー……。俺は忙しい!!」
「……暇そうだから頼んだんだけど」
少年はため息をつくとちゃぶ台の上で大の字になり、お昼寝を始めた。
「おいおい……自由人形め!兄貴のイチはどうした?ロク!」
「さあ?どっかにいるんじゃないの?」
ロクと呼ばれた少年はほっこりしながらてきとうに答えた。
「てきとうすぎる……」
ブンちゃんはとりあえずやることがなかったのでゆのみと柏餅を持ってきてあげた。
「あー、どうも」
「どうもじゃねーよ……」
「ところでやることないの?」
ロクの無邪気な発言にブンちゃんはうなだれた。
「それがまるっきり……あ、いやいや、沢山やることある!忙しいんだ!俺は!」
「ふーん」
急に部屋の掃除を始めたブンちゃんをロクは興味がなさそうに見つめた。
「おーい!ロクー!仕事だぜぃ!」
そこへやたらと跳び跳ねながらちゃぶ台までやってきた銀髪の少年がもうひとり。
「あー、兄貴」
「おう!」
「イチか!良かった!さっさとロクを連れていってくれ」
「おー!ブンちゃん、忙しいそうだなー!!俺も手伝おうか?」
銀色短髪の少年イチは素直にブンちゃんの掃除を手伝い始めた。
「だー!!掃除はいい!!さっさとロクを連れてけー!!」
「えー!手伝うよー!」
「それより兄貴、仕事って何?」
収集のつかない会話をロクが軌道修正した。
「あ、ああ!ついさっき、お願いボックスにお願いが投げ込まれたんだよ!!」
「……賽銭箱な……。願いを投げ入れるんじゃなくてだな……。いつからお願いボックスに……」
ブンちゃんがため息混じりにつぶやくがイチに流されてしまった。
「願いは五月人形みたいに強そうな顔になりたい!とのことみたいだぜー!」
「……強そうな顔って……どうすりゃあいいんだよ……」
戸惑うブンちゃんにイチはさらに続ける。
「こう……がおー!!って顔すりゃあいいんじゃね?」
「じゃあ、そうやれって言ってこい」
「あははー、てきとー!」
ロクが手を叩いて笑っていた。
「……こんなてきとうじゃダメだ!よし!暇だから一個一個の願いをしっかりやろう!イチ、ロク!この願いの人間を夢でなんとかしてこい!終わったら俺がなんとか繋いどくから!」
「結局まるなーげー。よーし、遊びにいこー!」
ロクは楽しそうに立ち上がるとスキップで社外に去っていった。
「あー!待てよー!しきんな!俺がリーダーだ!!」
イチも負けずとロクを追って走り出した。
「……真面目はけっこうだが……うるさいなあ……」
ブンちゃんはため息をつきつつ、イチとロクを見送った。