桜吹雪のマラソン3
「……なんだかなあなあで戻っちゃったよのさ……」
雪子さんはなんだか落ち込んでいた。雪子さん、うるこ、いつよしくんはブンちゃんの社前に戻ってきていた。
「まあまあ……。なんだかわかんなくなっちゃいましたが刺激になったかもー……」
いつよしくんも収集のつかなかった今回の願いを自信なくつぶやいた。
「あー!私がうること争わなければ良かったよのさー!」
雪子さんは頭に手を当ててうなだれた。
すると、音を聞き付けたブンちゃんが上機嫌で社から出てきた。
「お?お前らー、なんかいい方向に進んでくれたなー!」
「えー?」
「うまくいかなかったよのさ……」
雪子さんは不機嫌そうにブンちゃんを仰ぐ。
しかしブンちゃんは興奮ぎみにこう話した。
「俺がなんもしなくてもふたりの夢がいい方向に行ったんだよ!」
「ん?」
雪子さん、いつよしくん、うるこは同時に首を傾げた。
それから
「なにかしたっけ?」
と三人で頭を抱えた。
※※
私は朝から晴れやかに目が覚めた。友達はいっぱいいた方がいいと思ったけど昨日の夢で少し変わった。なんだかすごく楽しい夢だった。不思議な女の子とパパに似た男の子と一緒に走っている夢。
なんだかわからないけどすごく笑ったの。
大人はなんでもかんでも友達友達って言うけど友達って誰でもいいわけじゃないんだ。
昨日みたいに一緒に笑いあえてまた明日も遊びたいなって思う気の合う人が友達なんだ。
無理に友達をつくる必要はないし、大人達に無理にくっつけられる必要もない。
もちろん、社会生活のために一緒に遊ぶことがあったとしても向こうもこちらも友達だと思わなければ付き合いになるよね。
私はパパやママを見てなんとなくは感じでたんだけど。
「おはよー!パパ!朝だよ!」
とりあえず私は隣のベッドで寝ているパパを起こした。
※※
娘に揺すられてやっと目覚めた。
「んあー……ユカちゃん。なんか今日は気分いい目覚めだなあ」
「パパ!お寝坊ー!」
と走り去っていったユカが昨夜夢に出てきた。不思議な夢だったが子供の頃を唐突に思い出した。
会社の付き合いとかそんなこと考えずにバカみたいに友達と遊んで時間守らずに帰って怒られて……そんな時期はどれくらい前だっただろうか?
僕は昔から時間をキッチリ守るのが苦手だ。
花見の席取りなんて自分になんの利益もないし、会社の付き合いだって当たり前だけど友達じゃないからどうしても億劫なんだよなあ。
なーんて、社会に出て嘘で固められた接待を何度もやってる僕らには今更な話。
でも根本的には友達同士でばか騒ぎしていたあの頃に戻りたいって気持ちがあったりして。
ああ……そうか。
ふと気がついた。
接待だったとしても付き合いでもどうせやるなら楽しくやらないと本当に楽しくないじゃないか。
人が花見をするのはこれからもよろしく!という繋がりの気持ちもある。友達とはまた違うけど『縁を切りたくない関係』という微妙な部分も人間にはあるんだな。
そう思えたら花見の席取りも『僕は使われた』と思わなくていいのかもしれない。
全然出世しないダメダメな五十代会社員だけど少しやる気出てきた。
今日はユカと朝早くから外に出るか。気分いいし。
ちなみにユカは靴下をせっせと履いていた。
「ユカちゃん、昨日、ユカちゃんが夢に出てきたよ。花見の席取り、ちゃんとできるかなと心配してたらユカちゃんが一緒にお花見ポイントまで走ってくれたんだ。それでちゃんと起きられたよ」
「ふーん。あ、私もね、パパみたいな男の子が夢に出てきたよ。友達ってなにか教えてくれたの。友達はね、百人も作らなくていいのよ」
「……友達……」
勘十郎はユカの言葉に少し衝撃を受けた。
「そういえば……あの人形館で小さな願いを書いたね……。なんだか二人ともちゃんと解決したような……」
「あー!そうだね!」
勘十郎の言葉にユカも声をあげた。
「じゃあ、とりあえず」
「とりあえず?」
ユカはペコリと頭を下げた。
「ありがと!」
「ああ、そうだね。ありがと!」
二人はとりあえず感謝を述べた。