雛人形は強い3
「もし……」
誰かが意気込むふたりに声をかけてきた。
「誰でしょうか!!」
メイちゃんは勢いよく振り向いた。振り向いた先に戸惑いの表情を浮かべたドール達が立っていた。皆、着物を着ており頭に烏帽子を被っていたりなかなかお洒落だ。それよりも……
「ああ……もしかしてー」
はーちゃんは呑気に声を上げた。
「お雛さんですね!!」
メイちゃんはがっついて叫んだ。
「一体あなた達は何者ですか?『彼女』の心には呼ばれていないはずですが……はっ!侵入者!」
お雛様が薙刀を構えて突如攻撃体勢に入った。お内裏様も刀を抜き、三人官女も五人囃子も皆それぞれの道具やら楽器やらを構えてこちらを睨み付けていた。
「うわわ!!無断で入ったけど理由がありまして……!」
「よわそーだねー?ちっちゃいし有名なメーカーのじゃないねー。全部セットになってる置物みたいな雛人形でしょー?」
「ははははーちゃん!?」
はーちゃんの火に油な発言にメイちゃんは蒼白な顔をしていた。
「バカにしおって……曲者!」
雛人形達は恐ろしい形相で怒り襲ってきた。ふつうは優しそうな顔をしているのだが触れてはいけない部分に触れてしまったようだ。
「さっさとやっつけちゃおー」
「し、仕方ありません!」
はーちゃんは楽しそうにメイちゃんは怯えながら魔法のステッキ風な棒を取り出した。
はーちゃんはステッキから炎を放った。
「えーいー!えーいー!」
雛人形達は臆することなく炎の中を突っ込んできた。
メイちゃんにはお琴の攻撃が飛んできた。五人囃子のひとりが琴を弾くと不思議な事に五線譜が現れ音符が飛び出してきてメイちゃんを攻撃しはじめた。
「なにこれ!!こわいこわい!!四分音符が噛みついてきますよ!!」
メイちゃんはステッキでバリアを張ると悲鳴をあげながら防御した。
刀や薙刀を危なげにかわして謎のビームを放ったはーちゃんだったがあっけなく三人官女のボンボリと梅の花攻撃にやられ、その場に目を回して倒れた。
「つ、強すぎるー……うー」
「はぁーちゃあん!?ひとりにしないでくださいよ!!」
メイちゃんは半泣きでステッキから雷を出して応戦したがすぐに後ろから飛んできたひなあられ爆弾と菱餅にこっぴどくやられ悲鳴をあげたまま倒れた。
「う、うきゅー!!」
我ながら変な悲鳴だとメイちゃんは思った。
「さっさと出ていけ!我らの想いは強いのだ」
お内裏様は威圧感満載の声音でメイちゃんとはーちゃんを威嚇した。
「ひぃい!!ごめんなさぁい!!」
メイちゃんは震えながらあやまったがはーちゃんはなんだか満足そうだった。
「ほら!あやまりなさい!はーちゃん!」
「ごめんなさーいー」
メイちゃんに強要され、はーちゃんはひれ伏してあやまっておいた。
「と、とにかく帰りましょう!恐ろしい!すんごく強いし怖いじゃないですか!!」
「だーよーねー」
メイちゃんはさっさと元の世界の空間を出した。
「ばーいばーい!」
「バイバイじゃないです!変な刺激しない!」
「あれだねー。そんだけ強ければ大丈夫だねー」
「あっ!」
はーちゃんの意図にメイちゃんは気がつき、声をあげたところで『お人形ランド!』に戻ってきた。
「ちゃっかり目的達成しました!!お姉さんには見せられませんでしたがお姉さんの心なので伝わったはずです!!」
戻るなりメイちゃんは目を輝かせてはーちゃんに詰め寄った。
「ねー。今頃あのお雛様達は頭がハテナになってるよー。あいつら何しにきたんだろーみたいなー?まあ、ただの侵入者で終わってるかもだけどー」
「わざとふっかけたんですか!危ないじゃないですか!!」
のほほんとしているはーちゃんにメイちゃんは厳しい顔で声を荒げた。
「まあまあー」
「おい!うるせーぞ!こっちは昼寝してんだよー」
はーちゃんが苦笑いをしているとブンちゃんが不機嫌に社から現れた。
「あー、ブンちゃんー。雛人形なんだけどー」
「すっごい強かった!!!」
寝ぼけているブンちゃんにメイちゃんとはーちゃんは興奮ぎみに叫んだ。
※※
ころん……カン!
「はっ!」
私はシャープペンシルが落ちる音で目が覚めた。
ああ……最悪……授業中に寝ちゃった。今は確か数学だった。
数学で寝るなんて最悪……。さらについていけなくなるよ。
今日は起きてるつもりだったんだけどな。
しかし……なんか雛人形がいっぱい出て来て悪者をやっつけてる変な夢だったなあ。しかも妹の雛人形だったし。あれはお父さんとお金を出しあって買ったんだ。あの子喜んでたなー。
バイトしてきた甲斐があるわ。
今日はひな祭りだしちらし寿司とかでパァッとやるか!
でもなんで雛人形が出てきたんだろ?
ふと神社でお願いした事を思い出した。
まさか……『お人形ランド!』の神様があんたらが買った雛人形はこんなに守る力があるぞって教えてくれたとか……。
いやー……ないない。
なんか正規の神様じゃなさそうだし……想像力豊かだな……自分。
まあでも……そう信じてお礼言っとこう。
「ありがと」