我が家は騒がしい
我が家は本当に騒がしい。居間でのんびり昼寝をしていた俺は、その騒がしさに、のっそりあぐらをかく。
「ねーねー幸太ー、遊ぼうよー」
「遊ぼうよー遊ぼうよー」
「遊べゃ、コノヤロー」
俺の下には、小さな兄弟が三人いる。彼らは今、俺の周りをドタバタ飛び回り、キャッキャと甲高い声をあげて笑っている。
母さんは買い物に出ていて居ないし、父さんは会社ぐるみのゴルフ大会に出掛けていて居ない。
必然的に標的になっているのが、俺だ。
「ああー、わかったわかった。何して遊びたいんだ?」 俺がため息混じりに答えると、三人は嬉しそうに飛び上がった。
「えーとね、アレアレ。あれやろう!」
まず、一番に叫んだのは、イガグリ頭の次男……つまり俺のすぐ下だ。
イガグリ頭は、どこからか緑色の縄跳びを持ってくると
「これで首吊って!」
とか言いやがった。 「あのね、それやったら死ぬからね」
「うん、だからやってぇ」
ニッコリ笑ったイガグリ頭を……俺は拳骨で殴る。だけど奴は逞しいから、ヘラヘラ笑って首に巻き付けてくる。
他の二人も、面白がっているから仕様がない。
「こらこら、だーめ! 他の遊びになら付き合ってやるからっ」 俺がちょっと必死になってそう言うと、三人は顔を見合わせて、思案顔。
「おい、お前ら?」
不安になって口を開いた俺に、今度は三男がニッタリ笑顔を向けてくる。 「じゃあさぁ、今度はアレさせてくんない?」
「な、何よ?」
俺の質問に、ますます口角を上げた色白の三男は、短パンのポケットから錆びた銀色のモノを取り出す。
あ、あれ? それで何すんのよ……。
「これで、スパッと手首切ってみていい? 恐いんなら首でもいいからさっ」
「おま……死ぬでしょう!? カミソリなんて物騒なもん捨てなさいっ」
けども、三男はフフフフフ……と笑う。なんかもう、目が逝っちゃってる。
俺が笑顔をひきつらせている内に、三男が首筋にキリッとしたカミソリをあてた。
「や、やめよ? いや、止めてっ……他の遊び! 他のヤツだったらいいからっ」
「もーう、兄ちゃんそればっかっ」
俺の小さな悲鳴を聞き届け、三男は手を止めた。
それからまた三人は、顔を見合わせて何かを考え始める。
いや〜、やんちゃなんだよね。一歩間違えると犯罪に走っちゃうんだよね、コイツら。
俺が三人を眺めて微笑ましく思っていると、今度は四男が俺の手を取って立ち上がらせた。 「台所行こう! ガス台の元栓あけてねぇ〜ガスの通ってるホースをハサミで切るの」
俺は面倒くさかったが、四男に引っ張られるままに、ついて行った。居間を出て、ザラザラ滑りの悪い廊下を歩き、狭い台所へと向かう。
後ろからは、次男と三男がクックと笑いながら、ついてくる。
「んでね〜、火をつけると綺麗なんだよぉ」
台所に着いた俺に、四男はよく切れそうなタチバサミと、マッチ箱をくれた。
どこから持って来たんだ、こんなモノ。
そんな疑問を浮かべながらも、俺はガスの通っているホースにハサミを入れる。
「う〜ん、固いなぁ。それよりお前、何で綺麗だって知ってんの?」 なんでかホースが切れずに四苦八苦しながら、俺は四男に尋ねる。
四男は、うししっと笑って
「だってね〜前にもやった事あるからさっ。爆発するんだよ〜」
「へぇ〜、面白いねぇ」
俺の言葉に三男が、腹を抱えて笑いこける。
俺、そんなに面白い事やってっかなぁ? ……にしても本当に切れない、何でだ?
俺が首を傾げた時、
「ただいまぁ〜!」
という母さんの声と扉の閉まる音がした。
弟達は、きゃははっと声を上げて玄関へと向かう。 しばらくして両手に白いビニール袋を持った母さんが、台所へやって来た。なんでか、弟達はいない。
「あれ?弟達は」 そう言った俺に、母さんはキョトンとする。
「なぁに言ってんの、まだ部活でしょう?」
部活? いやいや、もっと小さいじゃん……。
そこまで考えて、ハッとする。あんな小さな弟達、俺には居なかったんだ。
「ちょ! 馬鹿ーっ、アンタ我が家を爆発させる気!? それに何、その格好っ」
その後、俺は……散々母さんに怒鳴られた。
その当時は大笑いしたのですが……今考えると少し恐いですね^^;何だったのでしょう。