5話 新月の実力
実地訓練。
「実地訓練だっけ? 実地研修だっけ?」
それをしていかないと俺らのして欲しい事頼めないよね。
「………実地に向いてるとことかもあるのかな?」
冒険者協会にルウ達は向かって、受付に尋ねる。
「ああ。新月の皆さんはそういうのは初めてなんですね!!」
「そうだな……自分達もしてなかったし」
自分達もしてなかった?
「あの、サーシャさん?」
同じ女性だからと言う理由で――知らない異性に話しかけてはいけないとグレミオに叱られた――サーシャに尋ねると。
「ああ。――あたし達は実地研修してなかったんだ」
実地研修をしてない?
「じゃあ、採取と荷物運びから開始したんですか? それでここまで上り詰めたって……」
アレクがずっとそばで聞いていて驚いたように口を挟む。
「そんなにすごい事なんですか?」
「ええ。とても……」
「……もともと、三人で組むつもりだったんだ。最初は採取とか普通にしていたんだが……」
若干目を逸らされる。
「ルウが」
「えっ⁉ 俺っ⁉」
「お前以外誰が居る?」
「いや、サーシャやシャイアだって……」
もごもごと文句を言おうとするが、サーシャが呆れたように笑い、ずっと黙って聞いていたシャイアもじっとルウを責めるように目を細める。
「うん。ごめん。止めて、分かったから。視線痛い……」
居た堪れないと言うか痛い……。ルウがそう告げると。
「じゃあ自覚しろ」
「うん。分かった……。分かったから……お願いその無言で責めないで」
一体何があったんでしょう?
「すぐに分かる……」
シャイアが告げてすぐだった。
森をしばらく進んで行くと。
ぴたっ
――ルウの足が止まる。
「またか」
「………」
二人の視線が冷たい。冷たい視線がルウに向けられている。
「うん。ごめん……」
悪かったから。
「という事で、目的地から少し外れちゃうから」
ごめん。
そう告げたと思ったらこっちの意見も聞かずに走り出す。
「えっ⁉ あのっ!!」
慌てて追いかける。
「ったく。何を!!」
グレミオがしゃべりながら同じように追い掛けるので息も絶え絶えだ。
「ああ。凄いですね……彼」
アレクは全く息切れしていないで、何かを気付いたように視線を遠くに向けると。
そこには、魔獣。
そして、魔獣に襲われている子供。
「シャイア」
「――もうしてる」
熊によく似た姿をしている魔獣の爪が子供に触れる寸前。何かに阻まれる。
それが風の精霊の生み出した防壁だと気付くの居たのが少し後。
「詠唱もなかった……」
詠唱が無いとイメージが固まりにくいからと言われるのが一般的で術が弱いと言うのが通説なのにどう見ても丈夫で魔獣が何度も攻撃しているけど届いていない。
「ていやっ!!」
ルウの手にはナイフ。
そのナイフで魔獣と子供の間に入って、その爪を叩き落とす。
「えっ⁉」
叩き落とした?
「あのナイフにそんな強度はないと思われるのに……いや、それよりも、彼のあの動きナイフではなくもっと長物の……」
アレクが何かをぶつぶつ言っているが、意味が分からないし問い掛ける余裕はない。
「サーシャ!!」
ルウの言葉に合わせるように、炎の矢が魔獣の身体に命中していく。
……これもまた無詠唱。
「………」
「詠唱なしだと……⁉」
常識では考えられない。
「ボーとするな」
シャイアが口を開く。
「あっ⁉ あっ、あの……」
一体何をすれば……。
どうすればいいのかと困って尋ねるが、シャイアは教えてくれない。
そんな余裕がないと言うのか自分で考えろと言うのか。
「あの子供の救出してくださいっ!! ついでに、怪我しているなら回復魔法も」
答えたのはサーシャだ。
サーシャが敬語を言っている事に違和感を感じながら子供を助けようと動くが、それがルウの動きを邪魔してしまうモノであり、
「うわっ!!」
ルウの声が耳に届く。
どうやら着地しようとしたところに自分が言ってしまったようだ。
「我が命ず!!」
サーシャの声が届く。
その声に合わせるようにルウが空中に床が出現したように浮かぶ。
「サーシャ。助かった」
「それくらいする前提でなければ彼女にそんな事言いませんよ」
サーシャが告げる。
「それもそっか。って言うか、敬語!!」
「あっ」
「気を付けろって!!」
「すみません」
そんな事を言いながら、魔獣を魔法で追い詰めるサーシャ。ナイフで魔獣を翻弄するルウ。
シャイアは防御を一身に引き受けているようで二人に魔獣が攻撃をしようとしているがそれが四散している。
(ただものじゃない……)
バランスが悪い組み合わせだと言っていたがそんな事もない。
前衛のルウの攻撃。
サーシャの魔法援護。
シャイアの防御。
それが常識外れだと世間知らずの自分でも分かる。
そして、戦闘が終わり……一歩も手出しできなかった自分達を見て。
「これ訓練にならなかったよな!!」
と見当はずれな事をルウが叫んだ。
何このチート……