1話 冒険者登録
これでようやく一話です。
冒険者を登録する施設。そこに居た面々は入ってきた”新入り”に目の色を変えた。
流れる金色の髪。
金色は王家かそれに準じる者達しか持てないと言われる。
神殿関係者だと示す法衣。
神官、巫女は数は少ないし、冒険者とは立場も住むところも違うので殆ど接点はない。
綺麗な顔立ち。
婀娜っぽい美人は見た事あるが、真綿のような柔らかい雰囲気を持っている可愛い清楚系の綺麗な物はあまり接点がない。
つまり場違いな存在が現れたのだ。
ガラの悪いと煙たがれる者達が色めき立つ――。
回復魔法が出来る者は仲間として欲しい存在。
神殿関係者なら回復魔法は必須課題であるので必ずできるのは神殿お墨付きだ。
しかも見目麗しい。
誰もが仲間に欲しいと固唾を飲んで動きを見る。
依頼主だったら不可能だけど、冒険者の登録だったら――。
「初めて方ですね。本日はどのようなご用件で」
場数をこなしている受付嬢はそんな視線に一切動じず――その少女に声を掛ける。
ごくりっ
ごくっ
音が不自然に消える。
「――冒険者の登録を」
「では、こちらの書類を」
受付嬢が差し出した書類をその少女が記入する。
「では、冒険者の仮登録は済みました。これから正規に登録するために講習がありますが、受講できる日がこちらにあります」
カレンダーを見せる。
「一番近い日で大丈夫です」
「なら、講習はその日で。では、ベテラン冒険者の元で実地訓練を」
「「「「「「話は聞いたぜ!!」」」」」
一斉に立ち上がる冒険者の面々。
「お嬢ちゃん。俺の所に来ないか『ロナルドパーティー』と言えば実績も申し分ないぜ」
「いやいやいや。来るんだったら『不死鳥一団』だぜ!! 団員数は一番だからじっくり教えれるしな」
「何言ってんだよ。『青の精鋭』が一番だろっ!! どんな依頼も出来るしな!!」
実地訓練をした冒険者の所に8割所属する事があるので彼らは回復系が欲しいので必死にアピールをしている。
「――ひっ、お嬢様に気安く触れないでもらおうか」
「すみません。セレンは驚いているようなので」
一人の神官と騎士が詰め寄る冒険者達を抑える。
とっさにきちんとお嬢様と呼び直した事は褒める事かもしれないが、冒険者として登録するのにお嬢様も……も似つかわしくない。
とっくにバレバレだというのも気付いてない位セレンは世間知らずだが。
「グレミオさん……アレクさん……」
登録は一人でするので外で待ってくださいとお願いしましたけど。
セレンがそう声を掛けると。
「登録は完了したと思ったので来たんですよ」
にこにこと穏やかな笑みを浮かべて告げるのはアレク。剣士――本業は王族に使える騎士であり、セレンが幼い頃から護衛として側に居てくれた信頼できるものだ。
「ひっ、お嬢様の護衛ですっ。何かあった時にすぐ動けないと!!」
グレミオは今回の神託で神殿から送られた護衛だ。神官騎士と言う身分であるが、愚直過ぎる性格であると信仰的には信頼できるが、非常事態には弱いという欠点もあり、今回の護衛も兼ねて、彼の成長を期待されて神官長から推薦された。
――派閥関係なしで中立に選んだ結果が彼らしか残っていなかったというのもあるが。
二人の言葉にセレンは困ったように手を伸ばすが二人には二人の役割があるのでこれ以上言う事は出来ない。
困っていると。
からんころん
「ただいま――!! って、あれ?」
妙な雰囲気をぶち壊すように新たに入ってきたのは三人組の冒険者。
盗賊。
精霊使い。
魔法使い。
そして、魔法使いの使い魔である水色の狐。
偏っているパーティーだ。
世間知らずの、セレンですらそんな事は分かる位変わっている組み合わせだ。
「おや……」
アレクがじっと盗賊の青年に視線を送る。
「あら、ルウ。早くない?」
「簡単な依頼だったしな」
「簡単だって言えるのはあんたらだけよ。一流の冒険者でも手こずるのよ」
「それは、サーシャとシャイアがすごいからだろ。俺なんて全然っ!!」
「前衛が居ないから負担が一番多いのはルウだろう」
「誇っていい」
精霊使いの青年と魔法使いの少女が盗賊の青年――ルウに向かって告げる。
「いや……おんぶに抱っこだから……」
申し訳ないとばかりに告げて、居心地悪そうに顔を赤らめる。
偏っていると思ったけど、実力は折り紙付きなのだとこの会話で窺える。
そのルウと呼ばれた青年がいまだ受付周辺で冒険者に囲まれているこっちに気付く。そして、その中心であるとセレンを見て、
「どうしたの?」
と、人の輪を掻き分けて尋ねる。
邪魔すんなよとヤジが飛ぶが、そのヤジを精霊使いの青年が一瞥する事で黙らせる。
「困っているように見えるけど?」
「……ああ。冒険者登録か。神殿関係者だから大変だな」
同じように人の輪を掻き分けて魔法使いが判断する。
「サーシャ?」
意味が分からないとばかり魔法使いに尋ねるルウに。
「神殿関係者は冒険者としてなかなか登録しないんだ」
と教える。
「じゃあ、この人達は珍しいんだ?」
「そうだな」
「神殿と言うと……回復魔法とか後方支援?」
尋ねる様子を見ると彼もだいぶ世間知らずのようだ。――自分もだが。
「後、浄化も得意だな。浄化に限って言えば、神殿関係者以外出来ないぞ」
「浄化……」
その内容を噛み締めるように考えこむ。
だが、不意に、
「あっ。そうか」
そうか。なら。
ルウはいい事を思いついたとばかりに笑う。
「ルウ?」
「ルート?」
ずっと黙っていた精霊使いも口を開く。
「じゃあ、俺らも依頼できるんだよね」
例の物を頼むのにさ。
「彼女達に依頼。浄化してもらいたいものがあるんだ」
「「ルウ!!」」
二人が怒鳴りつけるのもどこ吹く風とばかりにルウはセレン達にいきなりそんな事を言いだした。
一応主人公はセレンです