No2 そして休日へ
やれやれ。これまで長かった。
土曜日は午前授業のみなので、まだ日も高い。日の光が明るく照らすアスファルトの帰り道で嘆息する私。はい、今日も疲れました。だが、言葉とは裏腹に歓喜が滲み出ていた。
なぜなら明日は日曜日。
そう、休みである。
「今日は早く帰れて良かったね!」
私とは違い、彼女は元気である。毎日が新しくて興奮しっぱなしなのだろうが、それも最初のうち。慣れれば流れ作業になり、疲労感だけが体に沁みていく。
そうなのは私だけかもしれない。そう思ってしまうほど、彼女は笑顔で色々なことを話してくる。
天真爛漫を絵に描いたような人――もとい、エルフ(仮)である。エルフ耳で押し通してしまうと、私の語彙力が疑われている気がするので、ここで変更を加える。
あと、ボロを出して「エルフ耳」といつか口に出してしまいそうだからだ。まだ「エルフ(仮)」ならば、「かっこ」と言っている分、修復というか回収できる可能性が十二分にある。
どっちかというと後者の理由の方が大きい。なので、エルフ耳の少女をエルフ(仮)と名義することにする。
とはいえ、彼女。エルフ(仮)にも名前があり、転校生としての紹介の際、彼女はヴィラ=ラララと名乗っていた。空で歌う情景を思わせる名前だと思うと同時に、自分の感性の良さに嬉しくなった。
しかしながらなるのだが。名前を知っていて違う呼び名を使おうとしている私である。
ニックネームやあだ名のような親密な形よりも、蔑称に近い。大変失礼に当たるが、相手は宇宙から飛来してきたであろう未確認生命体。恐らくは宇宙人。
敵愾心を見せないだけ、私は偉い。
「ねえねえ、ヤマクちゃん! 今日は時間もあるし、私どこかに行きたいな!」
彼女の前でそれが言えたら本当に偉いと思う。はい、予想通り私は言えてません。
言ったら人としての良心というものに傷がつく。ただでさえ、良心というものに触れてこなかったのだ、欠片でもいいから大切に保管しておきたい。
絶対安静である。
「どこかってどこに?」
無難に返す。自分でも、もう少し面白味のある返答があっても良いのではないかと感じているが、これ以上の返答内容を考えるのには時間がかかり、タイムロスしてしまう。
コミュニケーション検定初級試験でも危ぶまれる。頑張りましょうだ。
「私、転校してきたばっかりだから、この街について全然知らないの。だから、ヤマクちゃんに教えて欲しいな!」
「うん。分かったよ」
もぎたてのパッションフルーツのように、元気に弾けて話すエルフ(仮)。こちらまで元気になりそうになる声に、タイムゼロでOKの返事を出してしまうほどだ。
天真爛漫、恐るべし。
「じゃあ。一度家に帰って着替えてから遊びに行こう。待ち合わせ場所は学校でいいよね」
「了解しました!」
元気いいな、こいつ。
◇
◇
◇
「さっそく、街情報を知る手がかりが得られそうであります」
「スーパー頭脳を持つ天才な私の手にかかれば、こんなものよ。むふふふふふ♪
「侵略に向けてまた一歩。ふふ~ん、どんな服を着てこようかな~」
「……しまった。どんな服着ていけばいいのか全く分からない」
「制服と似たような服なんて、ないよ~」
複数の農牧民の民族衣装と見られる服を両手に持ち、手を動かしながらどれにしようかと難しい顔をして少女は悩む。
彼女もまた、慣れないことが多そうだ。