プロローグ3
上部がプリン、下部が分度器に半円がついたような、昭和のホビー用具店にあるような宇宙船。俗にいうUFOに混乱を覚えながらもどこか懐かしみを感じる山來。
彼女の血が歴史に埋没された昭和のおもちゃスターに感動しているか。それは不明だが、何かしら心に打つものがあったのは確かだろう。
でなければ、突如自分しか住まわない町に落着した未確認物体に躊躇するであろう彼女が、好奇心のまま宇宙船に近づくわけがなかった。
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毎晩読み耽ったこともあるSF小説の王道的展開に、目を輝かせる山來だった。だが、次第に探偵の目へと変わっていく。よく見れば、落下の衝撃に耐えきれず至る所に損傷の箇所がある。上部の窓らしきものも罅が入り、下部の半円の幾つかは黄色い光を失っている。
間違いない、この宇宙船は不時着したのだ。
夜ならではの変なテンション、また一生に一度であろう異常事態が混乱を拍車にかけているのか、山來は直感的かつ自己の経験にに基づく根拠(つまり根拠ではない根拠)からそう結論付けた。
なんとかして中に入れないかと、宇宙船のてっぺんによじ登ろうとしたが、あまりの熱さに手を離す。
「ふうー。…ギリギリセーフ」
直に触れる前に手を引っ込めて正解だ。もし、高熱を帯びた鉄に生身の手で触れようものなら重症ものの火傷だった。
「……大気圏を突破したんだものね。分解して壊れなかっただけ凄いのかも」
最も、山來に宇宙の常識というものが推し量れるものではないが、分解して街に墜落しようものなら、それだけ自宅に飛来する可能性が高まるというもの。
その場合、大気圏に突入する際の熱で消滅していくものだが、絶対とはいえない。
宇宙とは、それだけ神秘的で奥深いものである。
「来たのはいいんだけど、どうしようか?」
高熱を帯びる宇宙船に触れることは、もちろん論外である。
このまま何が出てくるか待つのも楽しそうだが、時刻は10時と何分。完全下校時終了刻まで後50分というところだろう。
自転車とはいえ、遠くまで来てしまった。このままでは下校終了時刻まで家に帰れないかもしれない。
そうなれば、教師ロボットの説教タイムである。作成者も関心がなかったのか、放浪癖のある生徒指導のメモリーが少ない。そのため、下校終了の失敗を重ねれば似たような話ばかり聞かされる羽目になる。
山來は既に20回を超えている。退屈を解消するイベントが目の前にあるとはいえ、それを代償に聞き飽きたロボット音声による説教を聞くのには御免なのだ。
「…また、明日来るとしよう。エイリアンとか出てきても御免だ」
先端時代の申し子の故か。山來もまた、ローディングや順番待ちで待つことが出来ないスキップ機能にお世話になっている人間であった。