プロローグ2
これは教師から聞いた話である。
私たちの祖先。つまり、まだ≪人類≫という種族であった時代、地球人とも呼称される彼らは他の種族を圧倒する卓越した知識で生命ピラミッドの頂点に立った。その偉業は、まさに賭博場で盤上を引っ繰り返すどころか、破壊する反則的行為ともいえる。
彼らは自分住まう星の資源を掘り返し、更に文明を加速させた。地球の資源に限りが見え始めた頃、次に彼らが着目したのは他の星――月である。
最も新しい時代を生きていると言われた当時の≪人類≫の何名かは月の土地所有権を買うことができたなんて可愛いもの。なかには、太陽の所有権を法的に買い、全人類に≪太陽税≫というものを課そうとした人がいたのだから驚きである。
その人がどうなったのか、はたまた組織ぐるみの犯行(犯行と呼ぶべきなのだろうか?)だったのかは不明だ。だが、未来に生きる私が≪太陽税≫を払っていないにみるに、きっとその企みは失敗したのだろう。
星一つでそこまで喧嘩するのもおかしな話だ。
そう思ってしまうのは、きっと天体観測する私の目に映る星々が小さな丸に見えるからだろう。
私は春の大三角形と、姿を見せ始めた夏の星座に季節の変わり目を感じている。あと、もう少しこのコントラストを楽しんでから帰るとしよう。
「あれ? あんな星あったかな」
ヘラクレス座の方からだった。星の並びではない、徐々に強くなる光はホタルのように発光を繰り返す。
まるでSOSのサインのようだと他人事のように思っていたが、私はある推測に到達してしまう。
「……もしかしてこっちに向かってきてない?」
◇
◇
◇
嫌な予感というのは当たるもの。
山來は頭の片隅にその思いを抱きながら自電車を漕いでいる。
時刻は午後の10時。目的地は未確認物体落下地点である。
天体観測の際に見つけた光だったが、まさかこちらに向かっているわけないと山來は下手な推測を捨てた。捨てたのだが、人間の性というものは一度気になったものの放っておけないものである。
大してつまらないドラマを最後まで見てしまうように、無駄な時間だと判っていても、始まりを知るとその結末が知りたくなる。
山來も同類だった。彼女はこちらに向かっているであろう光の経過を一時間近く辛抱して待った。結果、とても面倒そうなものがこの町の片隅に落下した音が振動で把握した。
無駄な時間だと思っていたが、違うらしい。
「……宇宙船かよ」
現場に到着した山來は誰に語るでもなく、ポツリと思考というフラスコの水から波打って零れるように言った。
まさかのUMAであった。