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ソリューション=その男、ナンバー(1)

 その衝撃音は、落雷が落ちたような凄絶さを、狭い室内に起こす。

 女刑事、天野・優妃は、突発的なことで身体が仰け反りそうになる。

 思わずデスクの裏側に足が当たり、軽く膝小僧をさすりながら轟音の元に目を向けた。


 有限会社ミズーリの代表、滝馬室・仁喜は短く叫び、立ち上がったのだ。

 その際、椅子が窓のヘリに当たって衝撃音を鳴らした。


 滝馬室はホワイトボードを見ながら、まるで世紀の発見でもしたように目も口も、鼻すらも全て広げ硬直している。


 突然のことで、驚いたのは目の前のデスクに座る加賀美も、同じだった。

 二人は唖然と、その後の様子を観察していると、安スーツの中年男は独り言を始めた。


 気味の悪い独り言に耳を澄ますと、節々に「もしそうなら……」や「……いや、それだと」次いで「だからか……」など、内なる見解と現実の整合性を図っているように見えた。

 彼は何度も順を追って反証し、納得した素振りを見せると、自身の中で完結したのか、見開いた顔は力強い表情に変わった。


 強張った表情は急速に緩んで行き、いつも優妃が知っている、間の抜けた顔に戻っていたのだった。


 そして――――――――。

 彼は、しぼむ風船のように着席し、何事も無かったかのように黙る。

 まるで落雷が落ちような瞬間の凄絶さは、あっという間に取り去られた。

 

 そんな彼を優妃は非難する。

 

「いきなり大声出して、ビックリするじゃないですか!? 小さいオフィスなんだから止めて下さい」


「お、おぉう……すまない」


 奇声を発した男は、外界との繋がりを断ち切るように、無言でPC画面に目を通す。

 さすがに、奇妙な行動は注意を引いた。

 優妃は聞かずにはいられなかった。 


「タキさん……何か気付いたんですね?」


「いやぁ――――……どうだろ?」

 

 まるでウソを誤魔化す子供のような滝馬室に、優妃は睥睨へいげいする。

 彼女は今現在の上司に、たいした期待もしていない。

 "代理店"が一丸となって捜査を行い、見えない犯罪者を追っていたにも関わらず、本庁による鶴の一声で腰が引けるような上司に、求めるものはなかった。


 無駄話で終わることを承知で聞く。


「また、くだらない推理ですか?」


「そ、そうなんだよね。いや~オジサンだから、くだらないことばかり思いついちゃう」

 

 上司は引きつった笑顔で答えた。 

 優妃は呆れながら聞く。

 

「今度は何ですか?」

 

「そうじゃなく……あれだ? そう! トイレに行きたかったんだ」

 

「はぁ?」

 

「いやぁ~、この歳になると、頻尿でさぁ~。中年特有の悩みだよねぇ~」

 

 そう言うと彼は作り笑いで、世話しなく扉を開け出て行く。

 優妃は滝馬室が出て行った扉を見つめ、憎しみを込めて言い放つ。

 

「ホント、最低! ただのオヤジね。どう思います?」

 

 今、この場には優妃と加賀美の二人しか居らず、当然、この投げかけは加賀美に向けたものだ。

 インテリ眼鏡はPC画面から目を離すことはなかったが、投げかけを拾うのは義務だと思ったのか、喋り始めた。

 

「あれでも昔は、警視庁でエースとして活躍していた敏腕刑事です」

 

「タキ社長が?」

 

 疑る優妃に、加賀美が一言添える。


「でなければ公安部という、特殊な仕事は出来ません」

 

 その答えで会話が途切れると、優妃はパソコン画面に目を落とし、作業を続ける。

 一時の沈黙ののち、優妃は加賀美に質問した。

 

「タキ社長は公安部に移動する前は、どこにいたんですか?」

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