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演劇の聖地(1)

「何じゃ、こりゃぁ?」


 滝馬室は、入り口に張られたポスターを見ながら、声を低く唸らせ、唖然として言う。

 

 神泉駅のウェイトレスから聞いた話を元に、優妃のタブレットで舞台の情報を検索すると、ちょうど本番期間だった為、金時計の男、もとい【役者】の男を確保出来ると踏んで、矢継ぎ早に夜の下北沢へやって来た。


 小田急線を本線とする、世田谷区下北沢。

 下北の呼び名で親しまれるこの街は、明治大学や東京大学の分校などのキャンパスが近い為か、とかく若者が多い。

 何より、吉祥寺、代官山、自由が丘に並ぶファッションの街としても有名だ。


 とはいえ、最先端ファッションを牽引する渋谷と違い、下北沢は古着の街として栄え、若者がファッションで個性を見せる場としても、知られている。


 若者が集まる場所には、自然とその毛色の娯楽が根付く。

 下北沢は演劇の街として広く知られ、劇場は大小合わせ約、八館。

 他の地域では、これほどの数は見られない。


 元々は、個人が創設した劇場が、今の時代まで受け継がれて来た為、その数を維持しているが、やはり、娯楽の媒体が爆発的に増えた昨今、ここに大きな映画館でも出来ようものなら、下北沢の劇場は壊滅的打撃を受け、街の様相はガラリと変わるだろう。


 ミニバンを近くの駐車場に止めた、スーツ姿の覆面捜査員二人は、ファーストフード店や携帯のアンテナショップの並びを進む。

 道沿いに様々な古着屋、パン屋、ラーメン屋が並び、日が落ちても若者でごった返していた。


 にぎわう通りを抜けて、小さな十字路に到達すると、レンガを模した作りの小劇場があった。

 あみだくじのような建物の壁に、身を潜め、劇場の様子をうかがう。


 端から見れば、会社の上司と部下に見えるだろか?。

 むしろ周囲には、そう思わせる風貌を意識してる。


 にも関わらず————関わらずだ!

 この暑苦しい女刑事は、右頬にかかるショートボブから、鬼のような形相で劇場の出入りを見ている。

 目つきは猫目を通り越して、狐目。

 妙な圧迫感を醸し出しだしているせいか、道をゆく人が、こちらに目を向ける。


 滝馬室は、いかにも普通の会社員風を吹かせ、優妃に漂う異様な気を、吹かき消そうと勤める。


 ガラス張りの掲示板に、上演される舞台のポスターが張られ、タイトルは「シン、君の鼻輪。」

 ポスターは、作業服を着た青年が、鼻輪を付けたホルスタインと、牧場にいるツーショット写真だ。


 キャッチコピーに「君のハラミは、前前前世でも美味うまいのだろうか?」とある。


「牛の話……だよな?」


 滝馬室の問いに、優妃は興味を示さず、壁際から入り口を見張る。


「知りませんよ……あっ、終わったみたいですね」


 舞台が終わり、見終わった客達が次々出てくる。

 ある者は足早に駅へ行足を進め、ある者は小劇場の入り口で、花束や手土産を持ち、役者陣が観賞してくれた客に、挨拶へ来るのを心待ちにしていた。


 優妃は上着のポケットから、モンタージュ写真を取り出し、入り口にたむろする客と見比べる。


 優妃の横で、滝馬室は写真を覗き見ながら、同じように見比べる。

 捜査に乗り気ではなかった滝馬室は、ふと我に返り、刑事としてのさがに脱力する。


 俺まで何やってんだ? 優妃の気勢にあてられて、”刑事”みたいな真似して————————いや、刑事だったな。忘れてた。


 しばらくして、入り口で、先に待っていた陣営に、丁寧に挨拶をして回る四人の集団が現れた。

 舞台に出演していた役者勢だろう。

 四人以外出てくる気配がない。

 これで全員か? かなり小規模の劇団のようだ。

 四人は、それぞれバラけて、感謝を来客達に伝えて回る。


 まとが四人に絞られたおかげで、すぐに捜している人物を見つけた。

 滝馬室と同じタイミングで、対象を見つけた優妃が、何度も写真を見比べ確信する。


「間違いない――――あいつだ」

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