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Third・Party《サード・パーティー》警察代理店  作者: にのい・しち
イノベーション=司法取引
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イノベーション=司法取引(4)

 滝馬室は溜め息をつきながら言う。


「時代は変わったねぇ~。昔の取り調べは、泣き落としや恫喝で、犯人を揺さぶって吐かせたのに、今や人権問題を考慮して、刑事と犯罪者が対等な立場で取引を進める」


 彼は肩をすくめて皮肉を漏らす。


「俺の若い時は、ぬるい取り調べをすれば、上司にやり方が甘いって、こっちが揺さぶられたもんだよ」


 画面に映る先輩刑事、諏訪は、滝馬室のボヤキを鼻で笑う。


『タキ。自分の時代が良かったと語るのは、オッサンの証拠だ』


 その言葉に、滝馬室はダルマのような偏屈な表情を作り、聞こえていないふりをした。


 戦友同士の語らいを思わせる会話に、左側で見守る優妃が、深刻な顔を見せて介入する。


「罪を告発させる為に、罪の追求を止める取引には、賛同しかねます」


 彼女の疑問に、公安部や捜査二課のように、正攻法とは違うやり口を知っている、滝馬室と諏訪には、答えづらかった。


 その疑問を加賀美が汲み取る。


「優妃さんの問題定義は理解出来ます。ですが、警察による、過去の強引な取り調べで冤罪が起きているのも事実。被疑者の人権を考えた上で、取引を持ちかけるのは、無駄をはぶいて事件を早期解決に導く、スマートな方法かと思われます」


 インテリらしい、ロジカルな意見だ。

 後一押しで折れそうな優妃に、滝馬室が一言添える。


「なんにしても、今は難しい時代だ。相手が凶悪犯でも、忖度しなければならない。それが、これまでの警察が変わったのだと、市民に見せるべく意志表明だ。現代の警察は世論に弱いからな」


 話に区切りが付くと、諏訪警部補は話を戻す。


『それと、リーダーの田代が追っ払ったヤクザは”清原組”だ』

 

 滝馬室が返す。


「清原組? 勢力を急速に拡大している、指定暴力団ですよね?」


『あぁ、清原組も、詐欺や違法薬物の売買で、荒稼ぎをしている連中だ。にも関わらず、礼状フダを取って家捜ししても、証拠になる物が出ない。隠すのが上手い奴らだ』

 

「風の噂で、一度、家宅捜索ガサに失敗したって聞きましたが?」

 

『あぁ、上も逮捕状を出すのに慎重だ。この詐欺グループのバックには、暴力団が裏で手を引いている可能性がある。本庁としても、繋がりの有無を見極め、双方の犯罪集団を壊滅に追い込みたい』


 諏訪警部補の意気込みに触発され、部下二人は力強く頷く。

 それに水を差すように、滝馬室が一言添えて、室内の熱を下げた。


「諏訪さん。ウチのチームを”裏付け捜査”の足に使うの止めて下さいよ?」


 優妃の愛らしい目が、宙を描いて回り上司の言葉に呆れる。

 画面に映る諏訪警部補は、鼻で笑いながら返す。


『お前は文句しか言わないな? 本庁の二課は取り調べに手が離せず、裏が取れない。所轄は詐欺の被害と犯人の詐欺行為を繋げる、裏付け捜査に出払っている』


 警部補の岩のような険しい顔が、一層、厳しく固まる。


『現状、新たなリーダーの捜査は動けない……この捜査で自由に動かせるのは、お前達、代理店だけだ』


 滝馬室は先輩刑事に、返り討ちに合うつもりで聞く。


「それはウチが、警察から”ハブ”られたチームだから、ということですか?」


 さすがに諏訪警部補も、付き合うのが面倒になったのか、つっけんどんに返す。


『使い勝手がいいのは確かだ』


「詐欺と半グレの次は暴力団ですか? 最後にテロリストが出て来たら、手に負えませんよ」

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