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Third・Party《サード・パーティー》警察代理店  作者: にのい・しち
イノベーション=司法取引
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イノベーション=司法取引(1)

 パソコン画面に映る、諏訪すわ警部補の声は、コントラバスのような重低音をスピーカーに乗せる。


犯人ホシ自白ゲロした』


 警視庁から解放された次の日。

 早朝から、諏訪・幹成みきなりの連絡により、有限会社ミズーリのオフィスで、サード・パーティーはテレビ電話によるミーティング――――元い、捜査会議をしていた。


 オペラ「トリステンとイゾルデ ~愛と死~」を社内に流し、会議内容の漏洩対策が行われる中、社長席である滝馬室のデスクに、部下二人は集まる。


 三人は窓を背に、椅子に座り、ノートパソコンと向かい合う滝馬室。

 その背後、窓側から見て左に優妃。

 右に加賀美と、それぞれ、滝馬室の後頭部越しに立ち見をしており、三角形のフォーメーションを成している。

 

 ブラインドを下ろしているとはいえ、逆光でパソコン画面に映る、諏訪警部補の顔は見づらく、フィルターがかかっているようだった。


 当の諏訪警部補は、綺麗に整頓されたファイルの棚に背を預け、腕組みをしながら、こちらに話かける。

 彼は棚同士の間に隠れ、目の前の棚に立て掛けた、スマートフォンのテレビ電話を使い連絡をしていた。

 警視庁内の資料室なのが伺え、人目を避けることを考えれば、人の出入りが少ない、既に解決済みの事件ファイルを保管しておく部屋だと思われる。

 

  諏訪警部補は概要を説明する。


『検察に引き渡した後、”司法取引”でリーダーの素性を明かせば、その分、罪を取り下げるとほのめかし、被疑者が食いつくように誘導して、”リーダー”の情報を自然と口にするように仕向けた。とはいえ、こちらが取り下げに応じるのは公務執行妨害だが』


「”魔法の呪文”が出たか……にしても、あれだけ苦労して逮捕したのに、取り下げるのが公務執行妨害コウボウじゃぁ、押さえた捜査員が泣きますよ」


 滝馬室が唸ると、疑問を持った優妃がパソコン画面に語りかける。


「自分から取引を持ちかける? 順序が違いますよね? そもそも、担当弁護士と検察官で相談しなければならないはずです」

 

『むしろ、警察の方が痺れを切らして打って出た。こちらから、検察に取引の打診をして了承も得ている』


「決断の早さを考えれば、検察も詐欺事件に関する裁判に、手をこまねいていたってことですね?」


『話は早いにこしたことはないさ。明日の午後五時で、逮捕から四十八時間になる。その内の十五時間が経過した。あまり猶予は無い』


 滝馬室が補足した。


「逮捕後、四十八時間を過ぎると、取り調べは検察に譲渡される。そうなれば、警察では手出しが出来ない」


『あぁ。だから、出来る限り、詐欺に関する情報を引き出したい……この詐欺は、世間を騒がせている事件ヤマだ。警察の面子を保つ為にも、警視庁による、早期解決を考えている』

 

 重苦しい空気が漂う中、優妃は待ちきれないように諏訪警部補へ聞いた。


「あの、それで誰が、司法取引を飲んだんですか?」

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