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警察の砦(2)

 低く野太い声が、狭い室内に反響した。


 エラを張り、岩のように角張った骨格。

 髪は引き潮の浜辺のように、前髪が後退し茶色の肌には、浮島のような小さなシミが、頰や額に見え、土気色の唇は、どこか消化器系の内蔵を痛めているのかと心配になる。

 切れ味の良さを思わせる、鋭い目の下には、濃いクマが塗りつけられたかのように付き、さほど睡眠が取れていないと解った。

 

 滝馬室は、入室したグレーのスーツ姿の男に向け、歓喜を上げる。


諏訪すわさん!」

 

 刑事は驚きながら、入って来たスーツの男と、滝馬室を交互に見ながら聞く。

 

「諏訪警部補の、お知り合いですか?」

 

 諏訪警部補は、取り調べを担当する刑事に説明する。


「信じられないかもしれないが……」


 警部補は周囲に聞こえることを、はばかったのか、刑事に耳打ちで伝える。


「この男は、俺達と同じ刑事だ」


「はぁ!?」取り調べの刑事は、目を丸くする。


「詳しいことは話せないが、公安絡みの事案で、身分を偽っている」


 職業柄、担当の刑事は説明受けても、まだ疑いの目を向けている。

 警察内部でも、どんな活動をしているのか解らない、得体の知れない部署だ。

 不信感を持つのは仕方のないことだ。


「取り調べは終わりだ」


 諏訪警部補の一言に救われた、滝馬室は、感謝を述べる。

 

「お、恩にきります」


 状況に納得していない、取り調べ担当の刑事を差し置いて、滝馬室は諏訪警部補に部屋から連れ出された。


*****

 

 取り調べ室から廊下へ出ると、白い壁を伝うように、二人のスーツ姿の男は歩いた。

 滝馬室は、落ち着きを取り戻すと、先輩刑事と会話する。


「諏訪さんが、捜査二課ソウニにいてくれて助かりました」

 

「俺も、そろそろ配置替えの時期だ。次はないぞ? それと、何だったて、強制捜査ガサの現場にいたんだ」

 

「話せば長いので、面目ないと言いますか……」

 

 滝馬室は、作り笑いで誤魔化すと、表情を引き締めてから質問する。

 

「やはり、二課が既に、アタリをつけていたんですね」 


「前から、ガサ入れする算段を付けていた。お前も、つくづく運が悪い奴だ。こんな形で、”また”取り調べを受けるとはな。もう監視任務も長い、同業者から見ても、刑事には見えないだろな?」


「実際、今の俺は刑事とは言えませんよ……」


 有限会社ミズーリに移動させられた刑事は、警察手帳がない上に、警察官の身分を証明する情報がない。

 その為、法的な行動範囲が限定され、上層部の指示する調査しか出来ない。

 狭い雑居ビルに閉じ込め、さらには、行動まで制限する。

 これは事実上の左遷。


 いや、幽閉だ。


 どこの組織でも、幽閉されるということは、余程の事。

 つまり、何も行動を起こせないように、檻に閉じ込めらた訳だ。


 サードパーティーとは、第三者と言う意味以外にも、”当事者”ではないと言う意味も含まれている。

 有限会社ミズーリは、まさしく、警察組織から切り離された存在なのだ。


 諏訪警部補は言葉を付け足した。


「だが、俺としては都合が良い。何せ、ウチで扱う事件で、”代理店”が潜ってんだからな」

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