表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/95

イノベーション

 滝馬室たきまむろ仁喜ひとよし

 四十歳。

 職業、会社経営。


 彼は、光すら届かず、暗闇で底が閉ざされた井戸を、地上から見つめるように、深く沈み、これまでの二週間を悔いていた。

 悔やんでも悔やみきれない。

 もう後の祭りだ。

 あの時、熱血女刑事の口車に載せられたらが、そもそもの間違いだ。

 あれさえなければ、俺は今でも、水の営業で、波風立てずに生活していたはずなんだ。


 どうするんだ、この状況?

 逃れようがない。

 俺も刑事で、訳あって身分を偽っている、と説明しても、信じてもらえないだろう。

 それを立証するデータは、潜入任務が終わるまで、開示されない。


 誰か、警察内部で権限を持つ人間が、俺を警察だと証言してくれれば、話は別だが、今の俺には、そんな人間はいない。


 それに、このまま、詐欺グループの一味として送検されれば、昼のワイドショーに取り上げられ、名前を公表される。


 そうなれば、有限会社ミズーリは間違いなく、世間から社会的制裁を受けて、跡形もなく消滅だ。

 

 カルト教団の監視任務を、まっとう出来なかったということで、そのまま公安部から切られるだろう。

 

 最悪、優妃や加賀美は、上司の俺が部下を騙して利用していたから、詐欺とは関係ないと言えば、難を逃れるはずだ。


 警察官の職務に復帰するのは、難しいとは思うが。


 当の俺は送検され、犯罪者として裁かれて、世間から消えて行く。


 本当にツイていない。

 せっかく、刑事の仕事から離れた、安住の地を手放すことになるなんて。

 


 取り調べ室は、冷たい壁に囲まれており、いるだけで息が詰まりそういになる。

 机の隅に、小型のカメラが取り付けられていた。

 スイッチが入っておらず、では記録はされない。 

 だが、こちらを一点に見つめるレンズは、まるで、滝馬室のこれまでの行いを、厳しく咎めているように見えてくる。


 こんな事態なのに、下らないことばかり頭に浮かぶ。


 ”刀倫処とうりんしょ”――――だったか?

 仏教に記されている地獄の一種。

 地平の彼方まで広がる壁に囲まれ、地は業火に焼かれ、天から熱鉄の雨が降り注ぎ、木々から刀が鋭く伸び、その刃は罪人を串刺しにして切り刻む。


 きっと昔の人は、逃げようのない窮地を、地獄に例えていたのかもしれないな。

 今まさに俺が、その地獄を”再度”味わっている。


 こんなことばかり考えてたら、また優妃に呆れられるな。


 せっかく、地道に挨拶回りをして、営業先のお客さんに名前と顔を覚えてもらい、世間話や家庭の悩みを打ち明けてくれるまで、親密になれたのに台無しだ。




 これから、どうなるんだろうなぁ――――――――…………。










              

              後半へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ