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加賀美というインテリ

 加賀美・じん。 

 三十五歳。

 階級は優妃と同じ巡査部長。

 優れた分析能力を持つ、頭脳派の警察官だ。

 

 警視庁・生活安全部・サイバー犯罪対策課・捜査第一係から左遷された人物。

 東京大学・工学科・機械情報工学科、卒業。

 民間のIT会社で五年勤めた後、警察官になった異色の捜査官。

 

 サイバー捜査官は、近年、変化が激しいネット犯罪に対応すべく、二〇〇〇年代から取り入れた公務員制度で、その特長は、民間から採用しているという点だ。


 サイバー捜査官は、ネットワークに関する専門技術を習得した上で、民間企業での実務経験が三年以上必要になる。

 そして、国家公務員試験という、並の人間でも難関である試験を合格。

 一ヶ月の間、警察学校での訓練を終えて、サイバー捜査官として入庁する。


 その際、与えられる階級は巡査部長。


 これは、国家公務員一般職試験(旧、Ⅱ種)を合格した、セミキャリアの警察官僚が与えられる階級と同じ。


 民間企業からの採用で、いきなりキャリア組と並ぶ階級を与えられるということは、それだけ、激変するネット犯罪に、警察が順応出来ず、専門技術を持った、捜査官が不足しているという事だ。


 一から、ネット犯罪に対抗出来る、警察官を育てるにしても、犯罪の最前線に出せるようになるまで、長い育成期間が必要になる。

 その間に、ネット犯罪は数秒単位で変化していく。

 警察が育てた、サイバー捜査官が活躍する頃には、全く別の形に変容したネット犯罪が横行するだろう。

 その時、戦力となるサイバー捜査官は、化石同然。

 

 民間から捜査官を採用するのは、現状を打破する、合理的な解決策という訳だ。


 だが、民間と公的機関には、やはり差違がある。


 創造性と能力主義のIT業界と、階級制という、縦割り構造の警察組織は、相容れない面が出てくる。


 そのギャップに、順応出来なかった一人が、この加賀美・尽だ。


 協調性が無く、周囲に合わせることが出来ない性格の為、精鋭が募る、警視庁に入庁出来ても浮いた存在となる。

 おまけに、上下関係が厳しい警察社会で、上司の指示が聞けないという、致命的な欠陥を有していた。


 手を焼いた上司は、人事部に働きかけて、彼を別の部署へ転属させる。

 だが、協調性のない加賀美が、他の部署になじめる訳もなく、彼が与えられたデスクに、私物の定位置を決める前には、もう、次の部署への移動命令が言い渡される。


 そんな調子で、警視庁の人事をタライ回しにされ、流れ流れて行き着いた先が、警察の外側、この有限会社ミズーリことサード・パーティーである。


 ミズーリに来たばかりの彼は、滝馬室に挨拶をすませると、それ以降、口を利くことはなく、滝馬室が与えた、経理の仕事を黙々とこなし、定時に帰るという日々を繰り返していた。

 曲がりなりにも、一流大学を出たエリート。

 現状に不満があるのではないかと、滝馬室は管理者として加賀美に、それとなく聞いてみた。


 その答えは、あろう事か「現状に不満はありません」だった。


 はぐれ者には、はぐれ小島が居心地が良いのか、彼は文句どころか、島流しを受け入れたのだ。


 *****************

 

 加賀美は話の続きを始めた。


「実は、お二人が、ここ数日、外で情報を集めている間、既に、ブログに詐欺グループと思われる相手から、メッセージがありました」


「マジかよ?」


 滝馬室の後に、優妃は食い入るように、続きを求めた。


「その後は、どうなりましたか?」


「内容はおおむね、詐欺被疑者が言われた、誘い文句です。ネットワークを追跡して、居場所突き止めようとしたんですが、海外のサーバーを複数経由しており、居場所を発見出来ませんでした」


「用心深いわね」

 

「なので、手段としては、電話回線、あるいわ電波の発信元を直に解析して、居所を突き止めるのが望ましいです」


 滝馬室が続きを付け足す。


「つまり、”逆探知”か?」


「はい。既に、こちらの連絡先を教えてあるので、近い内に向こうからコンタクトしてくると思います」


 顔色一つ変えず、淡々と話を進めているが、これまでとは明らかに違う。

 会計業務以外で、ここまで口数が多いのは初めてだ。

 

 眼鏡のインテリ男を見て、滝馬室は探りを入れる。


「加賀美君…………何だか、楽しそうだね?」

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