営業=地取り(3)
滝馬室は表札を確認する。
ここの家は【磯部】か――――。
インターホンを鳴らすと、三十代の主婦が出て来て、水の営業を断られた後に、詐欺被害の注意を持ち出す。
すると。
「一カ月前かしら?、そんな電話がかかって来たのよ。興味なかったから、断ったんだけどね……」
他にも、階層を登り、また端の号室から訪問する。
【緒方】
また、ある主婦は「しつこく、粘られたわ。難し話じゃなかったから、買おうか迷って、結局、辞めちゃったけど……え? 声の感じ? うーん……やたらと、声が大きい男の人だったわ。ちょっと下品な感じ。何だか怖いから、断っちゃった」
詐欺を行う犯人は、騙す相手をルーレットやあみだくじで決めている訳ではない。
そこには、一定の規則性が存在する。
ターゲット決めるまでの選別期間。
例えば、一つのマンションで下層から上層までに、セールスを装って、獲物の家族構成や日用品から経済状況を予測したり。
あるいわ、真っ当とはほど遠い商売筋、強引な訪問販売の会社から、顧客リストを買い取るなどだ。
それらリストを元に、獲物を物色していく。
いわゆる、ローラーという作業だ。
警察の捜査に置いても、地取りや聞き込みを、隅から隅まで行う際、ローラーをかけると言うが、優妃について回り、セールスに託けて、聞き込みする自分達も、詐欺をする輩と大差ないき気がしてきた。
そして、しばらく営業をかけて行く内に、必要な情報を得られるようになった。
それは、表札に書かれた【秋津】という家を訪れた時のことだ。
「振り込んでから、連絡がとれないのよ……」
こういう話がゴロゴロと、現れ始めた。
マンションから一〇キロ離れた、アパートに住む、【江副】宅の四十代の主婦は語る。
「子供が高校生で、授業料と塾の費用でお金かかるのよ。大学受験も控えてるから、旦那の給料じゃ足りなくてねぇ……私がパートに出てるんだけど、家計を押してるから、少しでも余裕があればと思って、振り込んじゃったのよ。声? ……かなり丁寧で、落ち着いた男の人で、会社員みたいな声だったわね」
また、そのアパート近くの一軒家に住む【宇夫形】と表札に書かれた、家に住む、老婦人の主人が出た。
「家の修繕費が高くついてなぁ。年金をあてがったら、生活するのが苦しくなってきたんだよ。今ある金が、少しでも増えるならと思って、振り込んじまった……ん~高い男の声だったなぁ。かなり若い。学生だと思うんだが、とにかく話が上手い。つい乗せられちまった」
ここまで地取りを行い、解ったことは、被害に遭ったのは、家計に余力を作りたい主婦が目立つことだ。
それ以外は、地域に一貫性は無い。
被害を受けた、家同士の近いところもあれば、やけに離れた場所もある。
名前もばらつきがある。
ということは――――――――。
それに、電話口での声。
声の印象は人それぞれ違う為、相手の特長が一貫するとは限らない。
しかし、ここまで千差があると――――。
推理小説の探偵を気取るつもりはないが、バラバラに散らばった、パズルのピースは、今だもって、形をなさない――――。