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最終話 前編 勇者覚醒

「う、うーん……?」

「カズヤさん?あぁ、よかった!目が覚めたんですね!?」

 ぎゅ、と抱き締められる感覚をペットの犬から感じることはないはずなので目を開けてみると、横たわっている俺の上に女の子が覆い被さっていた。俺ばかりが抱き締められているのも不公平な話なので俺も女の子の背中に手を回す……

「って!?おわっ何なにナニちょっと待って待て待てぇ!」

「ごめんなさいカズヤさん。びっくりしましたよね、でも私うれしくて……ほんとに、このまま目を覚まさないんじゃないかって……!」

「あ、うん心配かけてごめんな。じゃなくて!」

 抱きついている女の子を引き剥がして姿を見てみる。何色と言えばいいのかよくわからないが赤紫っぽい髪に同じ色の大きな目と長いまつ毛とそこそこしっかりした眉毛が垢抜けない雰囲気だ。肌は血の通った健康的な白色、顔全体としてどこか幼い感じがする。十四才くらい?

 うん、これは確信をもって言えるが初対面だ。

「……あのさ、俺ってあんたと」

「もしかして記憶がないの?そ、そんな……」

 うわうわうわなんか泣きそうだぞこの子。状況は全く分からないが知っている振りをしないといけなさそうだな。なにかヒントになるものは……そうだ、服装を見れば何か思い出すかもしれない。

 黒いマントに黒いローブ、後ろの木の椅子に置いてあるのは魔法使いがかぶっているような大きな三角の帽子かな?てことはそのそばに立て掛けてあるヘンな形の棒は魔法の杖だな。お、ご丁寧に名前が彫ってある。なになに、RIOLA_FOLPとな。

 なるほど!なぜアルファベットで書いてあるのかはさっぱりわからんがとにかくこの子は魔法使いのリオラということなんだな。よし!

「まさか、君の魔法を忘れるわけないだろ?リオラ」

「……っ!?」

 リオラはすごくショックを受けたようだ。まずい、外したか?

「カズヤさん、私の名前を呼んでくれた……私との結婚を受け入れてくれるんですね!?」

 んんんんんんんんんんん!?

「私、とっても嬉しいです!これでようやくカズヤさんをずっと支える本当のパートナーになれるんですね……」

「う、うん。よろしくな……?」

 目の前で嬉し涙をほろほろと流されては流石にどうしてそうなった、などと野暮な突っ込みを入れる気にはなれなかった。しかし結婚だって?なぜ?いやリオラはすごくいい子みたいだしかなりの美少女だから嫌ではないけど……

「あ、でもまだ勘違いしてますよっ!私が使っているのは『奇跡の力』です!カズヤさんは出会ったときから私のことを魔法使いだって勘違いしてたからもう慣れっこですけど、私は端くれとは言えど神様なんですよ!?」

「ごめんごめん、結婚しようだなんて恥ずかしくて冗談を混ぜないと言い出せなかったんだよ。ははは」

「……っ!もうっ!カズヤさんはいっつもふざけてて、その、ズルいんですよぉ!」

 顔を真っ赤にしたリオラがぽかぽかと胸を叩くのが奇妙に心地いい。

 が、俺の心中は全然穏やかじゃない!

 神様だって!?この子が?どっからどうみても魔法使いの格好してるのに!?分かるかんなもん見抜けって方がむちゃくちゃだ!

 なんだこれは、壮大なドッキリか何かなのか?そもそもここはどこなんだよ!?ゲームとかでよく見る宿屋の内装という感じだが、俺は家の近くの原っぱに居たはずだろ?何がどうなってるんだ?

「リオラ、とりあえず一旦離れてくれ」

「あっ!す、すみません私ったら……カズヤさんの気持ちも考えずに……」

「いやいや、そこはいいんだ。だけどその、俺はずっと寝てたんだよな?」

「はい。カズヤさんはあの邪竜に昏倒させられて以来ずっと寝たままで……もう四年以上は経っていると思います」

「う、うん?そうみたいだね。だからとりあえず今までの状況を順を追って整理してみよう。まず俺たちはここまで何をしてきたんだっけ?」

「はい!えっと、カズヤさんがあっちの世界からやって来て、剣を取って勇者になってあちこちで権力に固まった貴族たち、法に縛られ過ぎた警察組織、狂気に取りつかれた研究者の皆さんやエルフの森を襲うオークの群れなどを倒しつつレベルを上げ、奴隷の女の子達を解放したり心の折れた聖騎士さんを立ち直らせたりしながら名声を上げ、最後にこの世界の全ての不幸を司る邪竜に挑んで一撃で倒されて今に至ります」

「なるほど、そんなこともあったね……」

 ……。

 ねーよ!

 あるわけないだろそんな体験!?

 邪竜?は?何の話をしているんだって。なんだ、あれか異世界転生か!?確かにそういうマンガが最近増えてるねって思っていたけどもまさか自分の身にふりかかるとはね!でも記憶は保っておいて欲しかったかな!?

「え、じゃあなに、俺は今から邪竜討伐にいかなきゃなんないの?」

「ええ、いきましょう!世界を救いに!」

「俺は?前に一撃でやられてるよね!?」

「大丈夫です!そこに私が用意しておいた伝説の装備があります。カズヤさんのレベルなら十分装備できます!」

「おぉうやっぱり不自然にシステマティックだな……」

 装備レベルとかあんのかよこの世界は。

「あでも武器はあのときのままですから無理に攻撃はしないでくださいね」

「防具だけかよ!?そりゃ死ななければいつかは勝てるだろうけどさ!」

 不死は呪いってよく言うじゃん!

「大丈夫です!」

 なにがだよ。

「私がついています!これでも結構、カズヤさんが寝ている間にレベルをあげておいたんですよ」

「へー、そりゃあ頼りになるな……」

「今ではカズヤさんよりも私の方がレベルは上です!」

「……分かったよ。一緒に邪竜を倒そう」

 この世界のことを知っているこの子が高レベル?ならきっとどうにかなるだろう。俺は遠くで死なないように応援していれば良いんじゃないかなぁ。

 はー、どうせその邪竜がラスボスだろうからさっさと倒して現世に帰りたいねぇ。帰っても引きこもり人生が待っているだけだけどさぁ……なんつうか、結婚しちゃったみたいだし、やっぱり帰らなくてもいいのかなぁ……うーん、俺は優柔不断だな。

「で、その邪竜はどこにいるの?」

「はい。出て五分のところの洞窟です」

「近ぁい!」

「もうこの村の宿にいるのは私たちだけですよ。みんな避難してしまったので」

「危険じゃん!超危険じゃんそれ!」

「避難命令が出たのは今朝なのでご心配なく!今日倒せば問題ないじゃないですか!」

「そりゃそうだけども!」

「早くしないと、邪竜が洞窟から出てしまったら世界が滅亡すると言われているんです」

「それを先に言えっ!」

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