9章 勇者はやる気が出ない
魔王だのみで優勝して楽して金を得る作戦はどうやら無理の様だ、よりによって勇者が大会に出るとは予想してなかった。勇者なら旅でもして魔王を倒しに行くべきなのに、なんて軟弱な勇者なのだろうか。
「なあ、魔王。なんで勇者に負けるんだ?」
「勇者は魔王相手の時には急に強くなるのだ、吾輩の防御力を無視して攻撃が通るのだ。おまけにこちら の攻撃はほとんど無効化されるからズルいのだ。」
「勇者補正ってやつか。まあそれが無ければ人間が魔王に勝つのは不可能だわな。」
「いや、勝つ方法は有るのだ。勇者は心が折れると補正が無くなるのだ。」
「へ~、勇者の強さは精神力って事か?」
「そうなのだ、貴様は精神が強すぎなのだ。そもそも心みたいな軟弱なものが有るのか?」
「なめるな!俺だって昔は心が有ったんだ。働いてたら段々すり減ってきただけだ。」
「お主の世界は、偉く世知辛いのだな。」
「うむ、否定はしない。お前さんが住んでた世界の方が楽だったよ。頑張る余地が有ったからな。」
魔王の話を聞いて、仕方ないから適当に戦って帰ろうと思った。魔王が勝てないのを無理に俺が頑張る事も無いからな。召喚使えば勝てるかも知れないが、ここの勇者に恥をかかす事もないだろう。負けたショックで引きこもりにでもなられたら大変だからな。
「おまたせ!」
「ようアンジェラ来たか。」
「美味しい物お願いね。」
「何が良い、肉か魚かパスタか?」
「我は肉!」
「お前は何時も肉だな。野菜も食えよ。」
「パスタって何の事かしら?」
「こういう物だ。」
俺はスパゲッティーナポリタンを出した、魔王には3人前だから凄い量だ。それに、大量の粉チーズと少量のタバスコをかける。この2つが無いスパゲッティーは認めない。ケチャプで造ったヤツでもこの2つが有れば美味しく頂けるのだ。
「へ~、何だか面白い食べ物だわね」
「これは旨いが、直ぐ腹が減るのだ。」
「そう言うと思ったよ、ほらよ、ドライカレーだ。」
「ほう、何だかいい匂いがするな。」
「あなたの出す食べ物って、凄い色の物ばかりね。」
そう言われてみれば、自然界では赤や黄色は警戒色だったな。いつも食べてたから気にしなかったが、こっちの人間に警戒されるのは当然だな。
「刺激が少し強いから、食べない方が良いぞ。」
「食べるに決まってるじゃない、巨峰アイスは美味しかったわ!」
流石は冒険者、チャレンジャー精神旺盛だ。おまけに間抜けだ、俺達が敵だった時の事を全く考えていない様だ。もし俺が敵で、毒を入れてたらどうするつもりだ?
「なあアンジェラ、俺達が注意するべき事って何か有るか?」
「そうねえ、黒霧って言うチームに当たった時は気を付けた方が良いわよ、あいつらは相手を壊す事が大 好きな変質者の集まりだから。負けそうになったら直ぐに降参しないと、じわじわといたぶられるわ よ。」
「勇者の他に狂人まで出てるのか、嫌だな~。」
「私たちのチームはぎりぎりAランクのチームだからお手柔らかにね。」
「それじゃあ、俺達Eランクだから手加減よろしく。」
「はは、そんな作戦に引っかかる訳ないじゃない、どう見てもあんた達強そうだわ。」
「だよな~、俺はともかくこいつは見た目からして凄いからな。」
慣れたとはいえ、やはり2メートルを軽く超える魔王を夜見ると怖かった。俺が怖いのだから、知らない人間が見たらそりゃあ怖いだろうな、こいつと戦う人間は尚更だろうな。とにかく魔王には相手を殺さない様に良く言っておかなくてはならない。今回俺達が負けてもたたギルドが無くなるだけだから無理して勝つ必要は無いし、誰かが死ぬ必要も無いのだ。
「あなた達、明日の対策はしてるの?」
「対策?」
「明日は、ブラックドラゴンチームと戦うのでしょう?」
「ああ、トーナメント表に書いてあったな。でもどんなチームか分からないんだわ。」
「あそこにいる男のチームよ、全員重騎士で力押しの脳筋タイプ。前回5位ね。」
「あの、こっちを睨んでる5人組か?」
「そうよ、全員フルアーマー、タワーシールド装備の防御極振りタイプ。」
「じゃあ、魔法に弱いんじゃね?」
「フルアーマーにアンチマジックシールド完備で、魔法防御もめちゃ強いわよ。」
「どうやって、戦うんだ?」
「知らないわよ!」
どうやら1回戦は筋肉馬鹿との一戦の様だ。この世界の人間は現代人よりも体力が有るので厄介だ。毎日車で移動していた俺なんか捕まれば終わりだ。体重差が有りすぎて技が力で潰されるのだ、相手を殺す気ならやりようは有るが今回はそこまでする気もないしな。
「おい、魔王!明日は頼むぞ。お前だけが頼りだからな。」
「ふふ、吾輩に任せておくのだ。どんどん頼ると良いのだ!」
また、魔王がフラグを建てた様だ。身体が軽そうな魔王をほっといて俺はもう寝る事にする。考えても無駄な時は寝るに限るから。