7章 王都へ
黒龍を倒したのでギルドは安泰かと思っていたら、またクレームをつけられた。
「このギルドにはAランクのパーティーが有りませんわね。これでは駄目ですわ。」
「黒龍を倒したんだからAランクでいいじゃん!」
「駄目ですわ、死んだ黒龍を持ってきただけかも知れませんわ!」
「あんなデカい物運べるだけで凄いだろ。Aランクの力が有るだろ!」
「飛んでいたのが急に死んで落ちてきたのかも知れませんわ。」
「ぐぬぬぬ~。」
「じゃあどうしろって言うんだよ。」
「来月のギルド対抗トーナメントに出ていただきます。このトーナメントは各ギルドの腕利きが出る大会 ですから、そこで勝てば皆Aランクと認めますわ。」
「因みに前回の優勝者は我がギルドのメンバーですの。」
人は見たいものだけ見るとは良く言われる事ではあるが、実際にその手の人間を見ると言葉が通じない事に呆然とする。この女は俺達のギルドがカスだと決めているのでそれを否定する事実を絶対に認めないのだ。黒龍を実際に見ても認めないのだから物凄い脳内変換をしてる事だろう。
「仕方ない出場する。」
「ふふふ、ギルドの実力を見てみてくさいませ。」
出れば勝てるのは分かっているが、優勝出来るかどうかは分からない。俺は銃しか使えないので手加減出来ないし、魔王も強すぎるのだ。こういう大会では相手を殺すと失格になるのだ。俺達に観客を喜ばせるような試合なんて出来る訳ないのだ。こうなれば魔王の威圧で相手をギブアップさせるしかない。
「どうですか?馬車にはなれましたか?」
「いや全然。」
いま俺達は監察官の馬車に乗せられて王都に向かっている。道が悪いので酷く乗り心地が悪い。舗装路を車で走るので慣れている身には酷くこたえるのだ。そう例えるなら4輪駆動の車で段差を乗り越える感じだ傍から見てると分からないかもしれないが、体が揺さぶられて非常に不愉快だ。話をしてると舌を噛むので必要最低限しか話さないのだ。退屈なので魔王とゲームしてたが、馬車が揺れるので気持ち悪くなって辞めた。車酔いだ、二日酔いと同じで物凄く辛い、吐きそうだ。
魔王は尻も三半規管も丈夫なようで平気な顔でゲーム三昧だ。心底うらやましい、やはり名ばかり勇者の俺と違って本物の魔王は凄いと思った。
「ねえ、監察官さん。王都まで後どの位なんだ?早くつかないと死にそうだ。」
「あと三日ですわ、随分軟弱な体ですわね。そんなのでトーナメントは大丈夫ですか?」
「軟弱じゃない、繊細なんだ。」
「ふふ、タフなのは口先だけですわね?」
「何とでも言え。う~気持ち悪い。」
絶賛車酔い中なので言い返す気力もわかない。護衛のレパードもニヤニヤ笑ってて段々腹が立ってきた。そうだ俺は気が短いのだ。そもそも俺が苦労する必要が何処に有るんだ?世界がどうなっても構わない俺の車酔いの方が大切で切実なのだ。
「馬車を止めてくれ、俺は降りる。」
「はあ、馬車を降りてどうしますの?走って王都に行く気ですか?」
「いいから、止めろ!」
馬車を止めさせた俺は4輪バギーを召喚する。鈍い馬車に並走するならこれくらいで十分だ。大浴場と居酒屋で儲けたのでこれぐらいは楽勝なのだ。監察官には召喚を隠すつもりだったが、魔王の尻尾も見られてるんだから構うものか。そう俺は悪くない。ちゃんとした道を造らない王が悪いのだ。
「何ですかそれは!」
「秘密だ!」
俺は上機嫌で4輪バギーで走り出す、少々乗り心地は悪いが馬車の100倍は楽で楽しい。監察官がそりたそうにしていたが絶対に乗せてやるもんか。俺は根に持つタイプの人間なのだ。
「我も乗りたい!」
「お前は重いから無理だぞ」
「大丈夫なのだ、軽くなる。」
「そんなことも出来るのか?」
「当然だ、我は魔王だぞ。」
暗黒魔法の奥義重力制御を使った魔王は俺の出した4輪バギーに乗って楽しそうにしていた。
「ふんふんふ~ん!」
「なあ魔王、何で俺達と戦った時に凄い魔法を使わなかったんだ?」
「うむ、出す前にやられたのだ。お主らは問答無用でいきなり襲ってくるから攻撃する暇がないのである な。」
「そうか、何かすまんかった。」
「いや、あれが本当の戦いであろうな、相手に何かさせるのは馬鹿だからな。」
暗黒魔法の奥義で4輪バギーに乗ったり風呂を沸かしたりする気の良い魔王と俺は馬車の周りを走りながら王都に向かった。夜もテントを出したり、食い物を出したりして楽しく旅をした。文句が有れば女神が出て来るだろう。と言うかいい加減出てこい。死ぬ程文句を言ってやるのだ。
そうこうしてる内に王都に着いた様だ、デカい城壁が見える。人口40万を誇るこの国最大の都市らしい。都市に入るのに4輪バギーは不味いので、バギーを収納してまた馬車に乗る。監察官とトーナメント出場者なので簡単に都市に入れた。
「それでは3日後の大会まで、ここで大人しくしておいて下さいね。」
「分かった。」
大会出場者用の豪華な宿舎に案内された俺達は、監察官から早速釘を刺されたのだ。
「大会前に暴れたら、出場取り消しですからね!」
「大丈夫、俺達は紳士だから。」
そして宿舎に入ると当然の様に他の出場者達から睨まれたのだ。大会に出場するような血の気の多い者を集めれば当然だ。何時乱闘が起こっても不思議では無い雰囲気が漂っていた。
「我は、腹減った!」
「お前は、マイペースだな。それじゃあ、屋台で何か食うか?」
「うむ、旨い物が有れば良いな!」
俺達はライバル達を無視して夜の町に繰り出して、屋台で腹いっぱい食って飲んだ。屋台の親父にトーナメントの事を尋ねると、今は盛んに賭けが行われているそうだ、俺達のギルドは勿論最下位人気で倍率は1万倍なのだそうだ。良い事を聞いたので俺は掛屋に行って1万ゴールド自分たちに賭けてきた。これで優勝すれば1億ゴールドだ。