10章 第1試合
さて大会の会場にでも行くかと思っていたら、前から知った顔の男が近づいて来た。
「旦那、助けてくれよ。」
「あれ、レビンじゃねーか。どうしてここへ?」
「旦那達の応援に行けって、女神に送られてきたんだ。」
「応援って言っても俺達、誰とも戦ってないぞ。」
「そんな事言われても、俺もいきなりこの世界に飛ばされて、訳が分かんねーよ!」
レビンは向こうの世界ので普通に聖騎士として暮らしていたのだが、いきなり女神にこの世界に送られて来たのだそうだ、言葉は通じるが、金も知り合いもいないこの世界で俺を探して酷い目に会ったらしい。
「旦那の苦労が分かったよ。とにかくいきなり異世界なんて冗談じゃね~な。」
「だよな、仕事も知り合いも知識も無しで送られたら、生きるだけで精一杯だよな。」
「で、旦那は今何してるんだい?」
「いまから、ギルドの対抗試合が有るんだ。そこで適当に戦ってみるつもりだ。」
「まあ、旦那達なら大丈夫だろう。強いからな。」
「だと良いけどな。」
いつもとは違う俺の態度に首をかしげながらもレビンは俺達について来た。レビンは違う世界で聖騎士と言うエリート部隊に所属していたので相当な実力者だ。魔王にはまるで歯が立たなかったが、俺など秒殺だろう。
街の中心にある闘技場に着いて受付をする。出場者は1チーム5人までなので、レビンもチームに入れた。それでも俺のチームは3人しか居ない。
「いきなり俺も試合かよ、人使いが荒いぜ全く。」
「まあ、そう言うなよ。相手が人間だからレビンが無双出来るって。女の子にモテモテだぞ。」
「そうか?じゃあチョット頑張っちゃおうかな~。」
「心配いらん、吾輩が全て倒す。そして吾輩がモテモテになるのだ。」
「あれ?魔王って人間の女に興味あったの?」
「全然ないのである、ただチヤホヤされたいのである。」
「まあいいや、試合に行こうぜ。」
俺達3人は控え室に向かった。今日は午前と午後に試合が有るらしい。勿論午前中に負ければ午後からは何もない。勝てば午後にもう一回戦う訳だ。
明日の午前中に決勝出場者を決めるシンプルな大会だ。前回優勝者は決勝から出て来るので、全部で4回勝てば優勝、前回優勝者は防衛出来れば又優勝と言う訳だ。かなり前回優勝者が優遇されてる様だ。
「旦那、相手はどんな奴だ?」
「重騎士5人組らしい。魔法無しの力だけって話だ。」
「だったら、俺でも勝てそうだな。」
「期待してるぞ聖騎士君。」
案内役に案内されたのは行き成り闘技場の中だった。俺達は一番最初の前座の試合だったのだ。既に相手のチームも向こう側に待機していた。5人の重騎士だ。
「両チーム、中央へ来てください!」
入った瞬間呼び出される、誰も俺達に期待していないのか会場の観客もまばらだった。万年最下位チームの試合など誰も興味がないのだろう。
「よ~し、やるぞ!モテモテに成るぞ!」
「わははは~!儂もモテるのだ!」
俺は相手を見て益々やる気を無くした。2メートルを超える大男が身体が隠れる程の盾を持って全身金属鎧を着ているのだ。全備重量200キロ以上有りそうだ。押し倒されたら骨が折れてしまう、運が悪かったら首が折れて即死も有りそうだ。ガバメントは一応腰に有るけどホローポイントの弾しか詰めていないので盾も鎧も貫通しないだろうから、俺は無力に等しかった。
「それでは、試合開始!」
「ウォ~!」
レビンが馬鹿みたいに突っ込んで行った。盾を構えてる重騎士相手に革の軽鎧しか装備していないくせに正面から行ったのだ。魔王もつられて突っ込んで行く。俺は危ないので敵とは反対方向へ逃げる。
「どりゃあ~!」
レビンがタワーシールドに飛び蹴りを見舞った。相手の男は一瞬後ろに下がってバランスを崩したが流石はAランク冒険者、体制を立て直した。そして飛び蹴りの後地面に倒れたレビンに圧し掛かった。
「痛い!痛い!重い!重い!たすけて~旦那!」
倒れたレビンは重騎士2人にタコ殴りにされていた。
「わははは~!吾輩参戦!」
ぐわん!ごおん!
魔王が殴ると鋼鉄の盾が曲がり重騎士が吹き飛んでいた。200キロ近い大男が地面を転がって行く姿は圧巻だった。
「ワハハ~!吾輩絶好調~!オラオラオラァ~!無駄無駄無駄無駄~!」
魔王はやはり強かった。重騎士5人を一瞬でボコボコにした。文字通り、重騎士の鎧は殴られて凹みまくっていた。
「うわっはっは~!吾輩勝利~!」
「勝者!チーム・フリーダム!」
審判の判定が下り俺達チーム・フリーダムは初勝利を上げた。勿論俺は何もしなかった、レビンもただ殴られただけだ。魔王一人で勝ったのだ。
「旦那ひで~や、何もしてねー!」
「お前だって、殴られただけだろ!」
「我輩に任せておけば大丈夫、身体が何故か軽いのだ。」
また魔王がフラグを立てた様だ、一回勝ったしもう帰ろうかと思い始めた午前第1試合だった。




