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2話

 年が明け、冬が去り、3月になった。

 高校野球では12月から3月にかけて、試合を行なうことが禁止されている。なんでも、冬に練習のできない北国と差をつけないための決まりだそうだが、室内練習場を有している強豪校も多いことを考えると、この制度に効果はあるのかいささか疑問になる。


 神高でも試合解禁と共に、練習試合が組まれた。対戦相手はさほど野球の強くない進学校、実力でいえば若干こちらが上かもしれない。

 先発投手は俺。捕手は控えの二年生・多村(たむら)が務めた。

 自分は二年の夏の大会までずっと捕手一本でやってきたが、去年の秋より三年生引退による投手不足を解消するため、捕手と投手を兼任している。


 今年に入ってフリーバッティングで打者相手に投げることは何度かあったが、試合となると雰囲気が違う。なんとも新鮮な気分だ。

 久々の実践のマウンドを味わいつつ、持ち味の直球をメインにした投球で討ち取る。しかし、神高打線も相手投手を打ちあぐね、試合は四回まで互いに0行進で進んだ。

 俺はここまで結果的に打者を討ち取ってはいたが、コントロールが悪いこともあって球数は既に85球に達していた。「1イニング15球」が理想とされるなかで、この球数は明らかに多い。久々のマウンドということもあって、疲労がいつもより顕著に現れた。


「ボール!フォア!」

五回表、いきなり連続フォアボールを出してしまった。ノーアウト一塁二塁。打席には二番打者が入る。

 初球はスライダーがワンバウンド、これを捕手の多村は後逸してしまい二塁三塁へとランナーが進んだ、これで今日三つ目のバッテリーミス。

 このミスに怖じ気づいて直球を投げたところをセンター前に弾き返され、二失点。この後は無失点に抑えたが先制を許してしまった。


 俺は六回で降板。マウンドを二年生サイドスローの河崎(かわさき)に譲り、自分は慣れ親しんだ捕手のポジションに就いた。

 リリーフした河崎と俺のバッテリーは調子よく七、八回を無失点。その好投の応えるるように、七回に神高は四番・川原(かわはら)のタイムリーで2対2の同点に追いついた。

 続く八回にも一死三塁のチャンスを迎えたが、後続の打者が三振とサードゴロに打ち取られ勝ち越し点は奪えず。


 この無得点で流れが悪くなったのか、九回表、エラーで無死二塁のピンチを迎えてしまった。 

 ここでの1点が試合の勝敗を分ける重要な場面。打者はもちろん送りバントの構え、セオリーどうりの作戦で来た。サードとファーストに前進するようサインを送り、バントに備える。

 河崎がセットポジションから投げ込む。打者のバントはピッチャー正面の強い打球。

「サード!間に合う!」

 河崎は迷わず三塁へ送球したが、これが二塁方向へ逸れたうえにワンバウンドになってしまった。サードの塩谷は倒れ込みながらも捕球しようとしたが失敗、ボールが転々する間に二塁走者がホームを踏み、これが決勝点となった。



「ありがとうございましたー」

ゲームセットの瞬間ネクストサークルにいた俺は、ヘルメットを被ったまま試合後の礼を済ませた。

 正直、格下相手の敗戦はショックではあった。

 だが、周りを見ると皆思ったほど落胆していない。前向きな言葉を互いに掛け合っていた。

よかった。「常に前向き」、これぞ神高野球部の雰囲気だ。

「切り替えていこう!次は勝てる!」

明るく振る舞うナインにそう声を掛けて、グラウンド整備の準備を始めた。

大丈夫、次は勝てるはずだ。


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