プロローグ
高校野球といえば甲子園、甲子園といえば高校野球、と形容の呼応関係は成立している。
しかしそれは、全ての高校球児が甲子園を目指しているということを意味しているわけではない。例えば、通常の高校生活を犠牲にしてまで甲子園を目指すわけではなく、仲間たちと野球を楽しむことに重きを置く球児というものもいるし、それは俺の知る範囲でさえ少なくない。というより、自分自身がそれに近い存在である。
県立神山高校。
県北に位置する我が校、通称「神高」は、進学校でありながら部活動が盛んなことで有名である。
ただしそれは文化部に限った話。運動部は、決して広くないグラウンドを互いに分け合い、細々と活動しているのが実状だ。
俺はそんな神山高校野球部のキャプテン・長坂尚也。
「主将」といっても多数決によって押しつけられた貧乏くじであり、世間一般の「チームを背負う」というようなものではない。ただ神高野球部のキャプテンというのは伝統的にそういうもので、先輩たちも「今まで通り気楽にやればいいよ」と言って主将を任せてくれた。
狭いグラウンド、不十分な設備、笑顔の絶えない部員。俺はこの野球部の風景が嫌いじゃない。だからこそ「自分も先輩たちと同じように和気あいあいと部活をして、公式戦で1勝くらいできたらいいな」なんてことを思っていた。
あの天才がやってくるまでは。