おじさん
村に伝わる昔話。
お狐様とお姫様は幸せに暮らすことができたのだ。
村の女の子はみんなこの恋愛に憧れたし、お狐様とお姫様は隠れて暮らしていると信じていた。
私も、憧れた。大好きな人と結ばれてずっと幸せに暮らせるなんて。ずっと、ということは大人になっても? お狐様は神様だから、永遠に?
お姫様はこの山に来たのに、大人になれたのかしら? 私たちは大人になることができないのに。
「大人になんて、なれませんでしたよ」
「どうして? だって、人は歳をとるでしょう」
「私が悪いのです。私のせいで、彼女は大人になれなかった」
この村に名前はない。
家がいくつかあり、村長の一家とそうじゃない人がすんでいる。私はそうじゃない人。
村の人は普通山を降りないし村の外の人は誰も山に入ってこない。だけど、1人のおじさんだけはなぜか毎日山に入ってくる。このおじさんは私のお母さんのお母さんのそのまたお母さんの事も知っていた。おじさんがどこから来てるのかは知らないけど、毎日毎日美味しい野菜を持ってきてくれる。お母さんは、そんなおじさんのことを神様の使いと呼んでいた
「お姫様は大人になれなかったんだ。でも、幸せに暮らしたんでしょ?」
「そうですね。きっと、幸せでした。そのときも私はこうやって野菜を持って来て······」
ずぅっと昔のお話なのに、まるで知ってる人の話をするかのように喋る、面白いおじさん。
それが、おじさんへの印象だ。