妹より強い兄など存在しない
お母様、敬愛なるお母様。
「――――ナナキは強くなりました」
「なりすぎだ……」
イクシード・マギア、お母様の魔法。ナナキの、いいや、お母様の血族である兄レオン。その二つが重なればそれは大きな力となる。元より誇っていた防御力に加え、命を犠牲にして手に入れる強大な魔法による底上げ。紛い物ではあるけれど、お母様の影が見える。
幼かった頃、この瞳に映るお母様は強さそのものだった。強く、美しく、優しく、それでもナナキが生きて行けるように厳しく。誰も勝てない、誰も倒せない、そんなお母様のような存在にナナキは憧れた。だからその魔法を教えてほしいとお願いしたこともあった。
お母様はただ、この魔法は間違っていると、そう告げてナナキに教えてくれることはなかった。
やはりお母様は正しい。今日、ナナキはそれを確信した。目の前で再び這いつくばるレオン、これが証明だろう。確かにその魔法は強大だ。けれどそれは借り物の力、何かを失い続けながら発揮するとてもくだらないもの。見てみると良い、このナナキを。失うことなく発揮する、輝くこの力を。
代償を払うような強力な力には縋らず、お母様より頂いたこの身とこの才能、この素質だけで生き残ってきた。お母様は育てたかったのだ、本当の力を持つナナキを。ご安心くださいお母様、その願いは成就致しました。ナナキはもう、お母様を超えている。
「ああ、お母様……今日より最強はナナキと致します」
もっとも、これは友との絆が在ってのものだけれど。でもそれは仕方がないんだ、だってナナキと友は一つだから。人神一体、私たちは人で在り、神様で在る。人は崇め奉れ、神は畏れ慄け、ナナキ様だよ。
人神のナナキスマイル。世界の皆さま、ナナキです。
「ちくしょう……」
囀るのは弱者の証。レオンの身体を這うルーンも文字が消えていく。ほら見たことか、命を犠牲にしてまで手にした力でこのナナキへと挑み、そして敗れた。残ったのはボロボロとなった身体と蝕まれた命。人の使命、生存を蔑ろにした結果がそれだよ。ナナキの兄レオン。
「惨めですね」
「うるせえ……まだ終わってねえ……」
「正に、それでは決着を」
仰る通りだ。敵との決着はどちらかの命をこの世から消すことにある。兄妹であっても敵は敵、それはナナキにとって必要のないものだ。愛情はお母様より頂いたし、ナナキには姉がいる。だからこの決着には何の戸惑いもない。
さようならレオンお兄様、ナナキのために。
「――――……うーん?」
身体に様々な剣が突き刺さった。一瞬、シルヴァのアルシャ=ジオかと思ったがそれにしては剣が小さすぎるし、何よりこの複数の気配。雷と化しているナナキに剣を突き立てても意味がないのだけど、神様におかれましては頭の加減がよろしくナナキ? はっきり言うとバカ。
「こ、これは……!?」
驚愕の声はレオンから。するとこれはレオンの策ではなく、神様側の事情と言うことだろうか。
レオンを守るようにして立ち塞がる多くの神々。いったいどこから出てきたのかは存じ上げないが、十、いや二十にも及ぶ神がレオンを守っている。事情はわからないが、神様側からするとレオンを殺されるのはよろしくないらしい。
「好都合」
この瞳に映る全ての神様を雷で焼き払った。神話の雷とまで称されたその黒雷とナナキの蒼雷が交じりながら全てを飲み込み、消していく。本当に好都合、何故ならどちらもナナキの敵だから。等しく消えていくと良い。ナナキは敵を許さない、ナナキは敵を殺す。これは不変のものだ。
この高潔な志に対して意を唱えるかのように、ナナキの身体に剣を突き刺す神が居た。その頭の悪い行為にため息の一つも付きたいところだったのだけれど、友が騒がしい。人神一体となっている今、友の声はナナキの頭に強く響く。正直に言えば少しうるさい。
やれやれ、どうしたというのか友よ。うん? 強いの? 名前は?
あるまぎあえるだーん…………あらやだ三大神。
突き刺された剣から強大な魔力を感じる。無理やりナナキを吹き飛ばすつもりか。このナナキをそうも容易く倒せると思うな――――
「爆ゼヨ、崩界ノ仔ヨ」
バラバラに吹き飛んだ。
「からのナナキです」
こんにちは死ね。
強烈な魔力で散り散りにされてしまったけれど、ナナキは雷。すぐに全てを合流して再集結。彼の有名な三大神、アルマギア=エルダーンにご挨拶。人と等身が変わらない神様はやり易く、黄金の鎧の上から上半身と下半身を分けてやった。
「コレホドカ、ヒューマン・デウス」
「この程度ですか、三大神」
無論、決着ではない。
神界戦争を終わらせた三神の内の一神がこの程度なわけがない。それでも感じるその魔力に脅威はまるで感じなかった。イグレイ=アライラーとの戦いでは命の危機も感じたのに。答えは一つ、神様たちは間違えてしまったのだ。このナナキを、所詮は人間と侮ってしまったのだ。
仕留めるべきだったんだよ、何が何でもね。
「人はね、成長するんだよ神様」
それに加えてナナキは特別な存在。戦えば戦う程に強くなる、生きるために敵の力を超える。三神でかかってくるべきだったんだ、最初から。それを懲りずにまた一神でナナキの前に現れるなんて。知らないよ、殺されちゃってもさ。
万雷、天より雷の剣を降らせた。
剣を象った雷、その雨の全てがアルマギア=エルダーンのその身に降り注ぐ。受けてみると良い、かつては侮った神話の雷を。ナナキ共に在ったこの友もまた成長をした。さあ、笑い飛ばしてみろよ。人間と、格下の神様と。
「人間ガココマデノ力ヲ持ツカ」
雷の剣を全て耐えきったのは見事。けれど喋っている余裕があるのは少し気に食わない。だから一歩で詰めて、再生しかけているその身体に剣を差し込んだ。そうとも、真似をしてみようと思ってね。ナナキは問題はなかったけど、君はどうだろうね。
「目的ハ成ッタ――――」
剣に魔力を送り込めば雷が爆ぜた。バラバラに吹き飛ぶアルマギア=エルダーン。まあ、期待はしていなかったけれど致命にはならなかった。やはり神様でないと神様は殺せない。友の力と合わさって雷となっている今でもそれは変わらないらしい。
「うおあッ!?」
見れば、神様に拉致される間抜けが一人。
神様の都合でレオンを守り、その上で更に拉致まで行うとは。アルマギア=エルダーンは目的の達成を口にした。つまりは、最初から狙いはレオン。ナナキを狙うのならともかく、その軟弱な紛い物を狙う理由とは。少しばかり考えて結論が出た。
すんげえどうでもいい。
連れ去られていくレオンを笑顔で見送った。どうぞ御達者で、神様たちと末永くお幸せに。ナナキとしてもこれ以上そのお馬鹿な兄に付き合っていては主へのモーニングコールに遅刻する。ここで追いかけても三大神の首一つ、そんなものはいつでも取れる。
そもそも、エンビィたちは大事のように話しているけれど、ナナキとしては神様のことなんてどうでもいいのだ。だってそれは殺せば済む問題、これ以上に簡単なことはない。それに比べて恋の難しさと来たら、神様の比ではない。
ナナキは神様よりも戦わなければいけない恋敵が居る。
「というわけで」
レオンのことはどうでもいい。ナナキが大事なのは主ただ一人。そうと決まればスタコラナナキ。御目覚めをお告げするのはナナキであるのだ。駆けることナナキの如く、疾風迅雷はここに在る。括目せよラビットダッシュ、神速のぴょんぴょん。
「う、うあああああッ!?」
自分で何とかしてね。




