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雷帝のメイド  作者: なこはる
五章-夏の終わりと尊き教え-
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七姫

「――――改めまして」


 一堂に会する皆さまへ、敬愛なるお母様より頂いた真実の名を告げる時。


 お母様、大好きなお母様。あの日より今日まで大変な親不孝を致しました。頂いた名を偽る、この不義をお詫び致します。お叱りになってください。それからお喜びになってください。貴女の娘は居場所を見つけました。偽っていたこの名を明かそうと、そうまでしてでも居たいと思える居場所を。


 自身の居場所、その定義とは。


 とても簡単なものでした。ナナキが居たいと思える場所です。やはりナナキは特別です、お母様の言う通り。だって初めの一歩で見つけてしまいましたから。故に、これより先はそれを守ろうと思うのです。それがどれだけ大変であっても、私はきっとこの場所を退くことはないでしょう。


 だからこそ、なればこそ。


 私は皆さまに示します。誇り高きこの名を誇って行く。もう二度と偽ることはない。それがこの名を送ってくださったお母様への感謝。この名はお母様の娘であることの証明、命の次に与えてくださった宝物。名は体を表す、この名に恥じぬよう威風堂々と。


 ナナキはここに在る。


「ナナキと申します」


 一礼を以て終える。短く、真実だけを語ってみれば皆さまの反応はそれぞれに。そのうちの多くが如何にも知っていたといった体なのは何か納得がいかない。それでもヴィルモット・アルカーンとその従者であるアキハさんは驚愕を浮かべていたのでこの告白は無駄ではなかったと言えるだろう。


「…………はあッ!? なんっ……いやっ、ゼアンてめえ! 卑怯だろうがッ!?」


 しばらくの沈黙。静寂を切り裂いたのはやはりその男。金切り声を上げて主へと突っかかるその姿勢は初めて決闘をした日から何ら変わらない。


 しかし、真っ先に出てくるのがその言葉か。ヴィルモット・アルカーン、君は本当に変わらないね。ある意味とても強いのかもしれない。君の行為のほとんどを好ましいとは思わないけれど、その自分を偽らない強さには好感を持てる。ナナキが認めよう、君は立派な人間のクズだ。誇ると良い。

 

「いつの話だ。それに元雷帝でも今はアルフレイドのメイドだ。あの決闘に何ら問題は無かった」

「ふざけんなッ! 無効だあんなもんッ!」


 がくがくと身体を揺らされながらも淡々と答える様はさすがの一言。一方が幼稚な口論は捨て置いて、少しばかり呆けているナナキの友人を見た。ナナキと同じ髪の色、美しい黒曜が映える美人さん。視線が合っても反応がないので手を振ってみる。ふりふり。


「……超越者?」

「はい」


 唖然としながらもゆっくりと口を動かすアキハさんに応答。どうもアキハさん、超越者です。自己紹介のナナキスマイル。世界の皆さま、ナナキです。とびきりの笑顔をお届け、固まる友にピースも添えて。安心させたいと、そう思うのなら笑おう。笑うナナキに福来る。むしろ来い。


「ら、雷帝ナナキ……様……」

「あい」


 様は要らない。けれど今は彼女が落ち着くのを待つのが最善とナナキは判断する。さすがナナキ、立派な友人。ご覧くださいお母様、ナナキは友人を思いやれる立派な人間に育ちました。


「だからあの強さ……なるほど……」

「名を偽っていたことをお詫び致します。申し訳ありませんでした」


 謝罪は必要だ。彼女はきっと不要だと言うのだろうけれど、これはナナキの誇りの問題だ。友人で在りたいのなら誠意を以て当たるべきだ。ナナキはアキハさんが好き、ミーア様が好き。だからきちんと謝罪をして、こう言うのだ。


「これからも仲良くしてください」

「え、ええそれはもちろん。私なんかで良ければ」

「アキハさんが良いです」


 なんかと卑下することはない、そう思ったから本心を告げた。どうか自分を誇ってほしい。このナナキがアキハさんの人柄を認めているのだから。これはすごいことだ。ナナキは割と人を見る目が厳しい。そのナナキが言うのだから大丈夫。


「まあそういうわけでだ」


 これで概ねの説明は終わった。未だ突っかかってくるヴィルモット・アルカーンを手で制しながら主が本題に入る。そう、ナナキの真実の名は重要ではあるけれど過程でしかない。


「さっきも軽く説明したが、俺たち宛にパーティーの招待状が来てる」


 主の手にあるのはナナキの姉が綴った手紙。


 その一枚が、或いは世界の命運を決めるのかもしれない。五帝が望むのはどういうわけか話し合い、それに対してナナキたちは応じるつもりではある。しかし、それを主だけで決定するわけにもいかない。


「ご、五帝に名前をおぼえられてるのは光栄なことだよなあ……?」

「良い意味で覚えられているのならね」

「わ、わかってんよ!」


 おどおどとした様子で告げるヴィルモット・アルカーンに呆れながら告げるミーア様は手厳しいと言える。誰だって五帝に悪い意味で名前を覚えられていたら多少の不安は感じるだろう。今回ばかりはヴィルモット・アルカーンをフォローしてあげよう。心の中で。


「いくらナナキ様が居るとはいえ五帝が揃っている場所に赴いて大丈夫なのでしょうか? 罠とか……」

「炎帝に限ってないとは思いますが、例え罠であっても食い破ります。どうぞご安心ください、フィオさん」

「相手は五帝だぞ? 安心できるだけの根拠があんのかよ」

「ヴィ、ヴィルモット様っ!」


 納得がいかないと言った体で突っかかってくるヴィルモット・アルカーンを見る。慌てた様子で彼を宥めるアキハさんが少し気の毒に思えた。大丈夫、ナナキは寛大だからこの程度では気にもしない。それにしても、なるほど。根拠が必要か。


「根拠は在ります。ですが、それを言ったところで皆さまには理解できない」

「アアッ!? 言えねーってのか!?」

「いえ、ですから理解ができないのではと」


 二度も言わせないで。ナナキは無駄を好まない。必要のないことを説明するつもりは――――


「聞いてみなければわからないでしょう。説明なさい、ウサギさん」

「グゥグゥ!」


 承知のぴょんぴょん。雷帝ナナキとわかってもこのウサギ扱い。強かなるはミーア様、その度胸たるや見事と言う他ない。このナナキをウサギ扱いできる人なんて彼女しかいない。人間になりたいと切に思うこともしばしばとあるけれど、これも悪くないのではと最近は思うのだ。雷の兎、バチバチグゥグゥ。


 さしずめ雷兎(らいと)、でも扱いはlightと言ったところ。


「跳ねてないでさっさと言いなさい」

「はい」


 怒られた。


 必要とされているのは根拠。これは説明するといった類のものではないのだけど、ミーア様がそれを望むのであればナナキはそれに従おう。決して皆さまには理解できないと知っていても。


「ナナキだからです」


 静寂。ほらね、理解できない。


「私がナナキだからです。それが根拠になります」


 だって知らないでしょう。この中の誰がナナキの力を正しく理解していると言うのだろう。当然ではある。だって見せたことはないから。この力を知らないのであれば、ナナキの根拠を理解できる筈がない。だから無駄だと言ったのだ。


「それが、貴女の言う根拠」

「正に」


 ミーア様の言葉に確と頷いた。これこそがナナキの根拠、ナナキはこれを誇る。今この場では証明することができないが、その時が来ればいずれお見せすることになるだろう。


「……良いわ。私は納得する」

「ありがとうございます」


 数秒、視線を合わせた後にミーア様は折れてくれた。ナナキの瞳に何を見たのかはわからない。それでも彼女は納得してくれた。


「本当、恐ろしい瞳をしてるわ、貴女」


 これは褒められているのかな。どう思う、友よ。違う? あら残念。


「他に納得のいかない人はいる?」


 ミーア様が一同を見回しながら告げた。異論はなし。


「決まりだな」


 締めは主が呟いた。その蒼星石の瞳がナナキに向けられた。承りました、我が主。一礼にて応える。


 対談への参加は決まった。であればナナキの姉に返事のお手紙を書かなければいけない。敵対していてもナナキはエンビィを慕っている。心を込めて文字を綴ろう。彼女が教えてくれた文字だから、きっと喜んでくれると思うのだ。


「なにこの汚い文字!?」

「ミ、ミーア。もう少しオブラートに包んで言え」

「それにしたって酷いわよ」


 …………文字書けなくても生きていけるもん。

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