EMP笑顔
ミーア様は空を指差して言った。
「あるでしょう、世界中のどこでも見渡せる旧世界の遺物が」
「……本気で言っているのか? 西暦が二千年の時代に作られたものだろう?」
ミーア様の言葉に全員で空を見上げた。
まだ科学が共にあった時代の産物。ナナキもそれがどういうものだったのか程度の知識はある。確かにそれならば、ナナキの感知外からでも地形を把握できて転移魔法を行使できる。転移魔法に必要なのは平たく言ってしまえばイメージだ。肉眼でなければならない、という制限はない。
――――人工衛星、それが新魔法の正体なのかもしれない。
「ただ、千年以上も前の物が残っているとは考えにくいし、何より動いているわけがないわ」
まったくもってその通りだ。それで納得するべきである。けれど、それは確認ができないから至る結論だ。ここにはナナキが居る。
「確かめて参ります」
ナナキにはそれができる。成層圏程度ならば何度かその美しさに惹かれて上ったことがある。
ただ、これは恐らく入口なのだと思う。いつだって想像もしないところから、こういうものは現れる。多分これは、世界が隠しているものだ。知ってはいけないことなのかもしれない。帝都で感じた何かの違和感がどうしてか形になっていく。
敬愛なるお母様、これは触れてもいいものなのでしょうか。この愚かな娘にはわかりません。ですが、ナナキの世界が変わったことに関係があるように思うのです。ナナキは予言の真実を前にしているのかもしれません。
「――――ねえ、科学って本当に滅びているのかしら」
ミーア様は、いや――――ナナキたちはソレに触れた。
◇
曰く、技術は滅びた。
終わってしまった世界がまだ健在だった頃、その人口はおよそ七十四億人だったと聞く。途方もない数だ。この大地の上にそれだけの人間が居たことを誰が想像できるだろう。それだけの人々が居たのに、世界は終わってしまった。
たったの一日でその人口は二十億まで落ち、千年後の遠い現在では約二億人。
神々の争いに巻き込まれて多くが死に、生き残るためにと手を出した新しい力に馴染めずに死んだ。人間が魔法を使えるようになったのはほんの百年前の話らしい。九百年という長い時と多くの人間の犠牲によって人間はようやく進化した。
魔力への適応、それから今の時代がやってきたと聞いた。
科学の技術は多くが失われ、知識が足りなかったそうだ。だから人間はより効率の良いエネルギーを求めてそちらを優先して研究を始めた。結果、科学という力が復元されることはなかった。魔力と言う効率の良いエネルギーが万能であると思い込んでいたから。
致命的な真実が露見してからは、多くの弱者は科学の復活を望んでいる。
だからこれはきっと、パンドラの箱。
それでも開けることを三人で決めた。鍵は蒼より更に高いところにある。
だから、蒼を駆けた。
「――――綺麗」
こういう時、学がないのが恨めしかったりする。陳腐な言葉しか思いつない。蒼と白しかない不思議な世界、大地はもうとっくに雲に飲まれた。この上に、ずっと上に、本来なら在ってはならないものが在るのかもしれない。もしそれが存在してしまったら、帝都は正しく崩壊してしまう。
弱者は怒りを伝染させるだろう。
シルヴァたち五帝が居る。制圧は容易いだろう。けれど、ナナキでもわかる。そうなってしまっては、もう都としては機能しない。皇帝陛下の権威は地に落ちるだろう。ナナキ以外の人間で言うところの、金銭と同じだ。誰もが信じているからそれに価値が付く。誰も信じなくなったらそれはただのコインだ。
全て思い過ごしであれば良い。唐突に現れるあの魔法は非常に厄介だけど、友と一緒ならばそれでも対応することはできる。だから全部思い過ごしであれば良い。帝都が混乱に陥るよりは。
そう思っていたのに。
「――――何を守っているのですか、サリア」
天帝サリアは蒼と白の境界でただ佇んでいた。
「そうですか。やはり、在るのですね」
「……私たちはナナキに勝てない。だから、使うことになったの」
「私以外は皆知っていたのですね。そんなものがあることを」
「ナナキは子供だから」
科学の存在は天帝サリアによって肯定された。
ナナキは強者だ。弱者の様に騒ぎ立てたりはしない。この身は正義を求めるわけではない。いつだって世界は厳しく降りかかるものだ。それに声を上げるのならば結構、行動したまえ。なんて、偉そうなことを言いたくなるのだけど、今回ばかりはナナキにも不都合がある。
他にどんなものがあるのかは存じないが、その科学だけは邪魔だ
それがあると、主の傍に居られない。
「行くよ、ナナキ」
「参ります。サリア、シルヴァ、ライコウ」
もう後手には回らない。再び突然に現れた二つの気配に今度は気付いた。先程とは状況が違う。ここには主が居ない。誰に対しても迷惑の掛からない大空だ。そして今、友はナナキと一緒に戦う。それがどういうことかわかっているのか。
さあ友よ、存分にやろう。
受けてみると良い、神話の雷を。
「――――ッ!?」
「シルヴァッ!?」
広域殲滅の放雷。直撃はライコウのみだった。黒焦げになり気絶する彼に少しだけ同情。だからもう少し速く動けるようになった方が良いと、あれほど言っていたのに。ただ気絶しながらも飛行魔法を維持しているのは少しカッコイイ。ナナキも今度寝ながらできるかやってみよう。
シルヴァは辛うじて範囲外から逃げていた。お見事。でも命を拾った代償は払わなければいけない。無理な動きをすれば隙ができてしまう。ナナキだってそれを払った。本当に痛かったよ、覚悟はよろしいか。
互いの剣が交差した。
剣帝とまで呼ばれるその腕前は鮮やかなものだった。単純に綺麗で強い。速度も十分、練りこまれている魔力は全てを両断するのだろう。剣帝に剣戟なし、全ては一撃で決着と成す。であれば、ナナキもその流儀に従おう。人の剣か、外道の剣か。外道と、そう言ったのは貴方だぞシルヴァ。
「――――がああッ!?」
剣帝、一閃に伏す。
一合も合わせることなくその利き腕を切り飛ばした。神様の力が在ればまたくっつけられるだろう、心配は要らない。それにシルヴァ、貴方はナナキのお腹にとんでもない物を突き刺した。腕の一本や二本は覚悟をしておくべきだろう。
ともあれこれでシルヴァはしばらく戦力外だろう。少なくとも数か月は元の感覚に戻すための時間に当てるだろう。墜落していくシルヴァから視線を外した。今回の戦闘ではもう復帰はできない。となればあとは一人。
「これでサリアだけですね」
「――――流星よ」
ナナキの話には聞く耳を持ってもらえなかった。よく本を借りる仲だったのに、残念だ。
降ってくるのは天帝が得意とするお化け流星。もしこんなものが大地にでも落ちれば地球の形状が変わってしまうかもしれない。それはいけない、このナナキが迅速に排除しよう。準備はよろしいだろうか友よ、それではいざ、突貫。
雷の矢となりて流星を射抜――――けないなこれカッタイ。
余りの強度に途中で止まってしまった。なんたる不覚。傍から見れば歴史上類を見ない間抜けに見えてしまうかもしれない。それだけは嫌だ。
うーん、いしのなかにいる。
もういっそこのまま人工衛星を破壊するというのはどうだろうか。サリアから借りた戦争の本で読んだことがある。高高度で巨大な雷を発生させるとなんとかパルスがどうのこうので科学は壊れてしまうらしい。ナナキと友ならばそれの再現ができるのではないだろうか。
どこらへんに衛星があるのかわからないから、雷が地上には届かない程度の力でやりきろう。蓄電蓄電、ビリビリよろし。自分の魔力をぎゅーぎゅーに圧縮して、それを友の魔力で更に圧縮して。後は発動と同時に全力で魔力を放出するだけだ。
それではよろしいだろうか友よ、では御一緒に。
――――天地開闢のナナキスマイル。科学の皆さま、ナナキです。
くたばれ科学、主のために。




