決戦モーニング
「殺した相手に祈るのかい」
「誰にも祈られないよりは良いでしょう」
果てた七人の亡骸はフレイラインのすぐ近くにある林道で眠って頂くことにした。君たちは主であるアイナ・アイナの命に従ってこのナナキと戦った。戦いは終わった。ナナキの敵ではなくなった。だから祈ろう。愚かで在ったけれど、勇敢で在った君たちのために。
どちらが悪いのではなく、どちらも譲れない道だったのだ。であれば弱者が退くは必然。このナナキは強者である。君たちを犠牲にして先を進もう。どうか誇ってほしい。君たちはナナキの誇りの一部となった。この道を進む上で、ナナキは一切の負い目を感じることはない。
それが君たちを殺した強者の責任だ。
「段取りが付いたら報告に来るが……今回みたいにいきなり攻撃とかは止めてくれよ」
「報告は貴方本人でお願い致します。それ以外は斬ります」
「ほんとおっかねえ……」
仕方がない。誰がアイナ・アイナの手下なのかナナキにはわからないのだ。報告かと勘違いして接近を許し何らかの先手を取られるわけにはいかない。ナナキはミーア様と約束を交わした。この誇りに懸けてその誓いを破ることは許されない。
「それじゃあ段取りを付けてこよう。わかってるとは思うが、俺はアイナ・アイナを止められはしないぞ」
「主の婚約者、シエル様の件はこちらで対応します。ですが貴方も努力はしなさい。怠けることは許しません。命の保証は次に出会うまで。せいぜい良い手土産を用意しておくことです」
「しばらくはメイド見るだけで固まりそうだ……」
それは重畳。ゆめゆめ忘れるな、君は一度ナナキと敵対している。ナナキとの戦いで生き残ったその実力に敬意を示し、ナナキは君を警戒する。必要ないと感じたのなら、いつでも殺す。一度でも刃を向けている以上、主の傍には置いておけないから。
「ああ、そうだ。メイドさんよ、最後に名前だけ聞いていいかい」
伝えるのであればどちらが良いか。決まっている、主の益になる方だ。これはアイナ・アイナへの宣戦布告となるのだろう。であれば叩き付けてやろう。さあ、アイナ・アイナ。初手ジョーカーだ、どうする。
「――――ナナキ、と申します」
「……………………マジ?」
質問には答えた。それ以上は答えるつもりはない。最後にもう一度だけ死者に祈り、彼に背を向けた。そろそろ朝日が昇る。屋敷に戻らなければ。
「……新しい仕事探しとくか」
それが良いよ。
◇
上昇する輝かしい太陽にピース。グッドモーニングナナキ。おはようございます、御日様。おはようございます、世界の皆さま。朝です。ナナキです。起き抜けの君にライジングサン。太陽光が苦手な皆さま、ご安心ください。別の輝きも用意してございます。
覚醒のナナキスマイル。世界の皆さま、ナナキです。
シャイニングナナキ。輝くナナキの笑顔でモーニング。一日の始まりは笑顔と共に。ただの一度も笑えなかった一日が充実していたと言えるだろうか。否である。些細なことでも笑いましょう。豊かな一日でありますようにと。スマイル教祖ナナキ。
時間的にはまだ早すぎるが、急ぎ主の耳に入れなければいけない要件がある。気配が動いたことを確認してから主の部屋をノックする。
「誰だ」
「ナナキです」
「入れ」
許可が下ったのですぐさまに入室。失礼致します、と深く腰を折ってから顔を上げた。真っ先に思ったのは寝間着。主の寝間着姿は初めて見る。洗濯している時にいつも見かけているが、着ているところは初めてだ。なかなかに似合っている。可愛い。
「おはよう、ナナキ」
「おはようございます。朝早くから申し訳ないのですが、取り急ぎお耳に入れたいことがございます」
「朝一でナナキが来た時点で何かあったなとは思ったよ」
「難儀なものです」
起き抜けのところに申し訳ないけれど、深夜の出来事について語っていく。アイナ・アイナの決断に対してナナキがどう動いたか。結果、アイナ・アイナとの対談を再び要請している件。そしてシエル様に危険が及ぶ可能性の高さ。なるべくわかりやすく、丁寧に説明した。
説明の最中、主は表情を崩すことなく何度も頷いた。ただの一度も質問することはなく、ナナキから仕入れた情報を自分の中で組み立てていた。やはりこの御方はずれているのだと思う。ナナキは七人を殺した。普通の人はそれだけでナナキを非難する。
きっと主とナナキは同じなのだ。
根本的に大きく違う。彼らは仕方がなく殺す。それしか方法がないと、誰かに言い訳をしながら。対してナナキたちは殺すために殺す。それなのに理由を問われるのだから、ナナキは言い得ぬ気持ち悪さを感じてしまう。文明で育った人たちは何かがおかしい。気持ち悪い。
殺すために殺すナナキと謝りながら殺す彼ら。
どちらが自然でどちらが不自然なのか、見ればわかる筈なのに。
「さすがアイナ・アイナ。婚約者のことなんか調べるのは造作もないか」
おっと、いけない。思考が脱線していた。
「あれだけ毎日お迎えに来ていれば誰の目にも付きます。聞けばすぐにわかってしまうでしょう」
つまりは言い方こそ厳しかったけれど、ミーア様の御指摘は正しかった。もう少しばかり慎ましく主へ接していれば多少の時間稼ぎはできたのかもしれない。どのみち多少、ではあるだろうけど。
「ミーアに頭を下げる必要があるな」
婚約者の危機に主は覚悟を決めた。そう、守る術ならある。ただそれには主の言うように、ミーア様の許可が必要となるのだ。ナナキが助言するまでもなく、主はたどり着いた。しかして相手はあのミーア様。お兄様大好きミーア様とはいえ、事がシエル様に関わると知れればどうなるか。
「事情が事情だ。動くなら早い方が良いな」
「はい」
「ナナキは御茶の準備をしてミーアの部屋に来てくれ。なるべく早く頼む」
「かしこまりました」
なるべく早くその場に向かおう。だからその情けない表情は御止め頂きたい。気持ちはわからないでもないが、ナナキの主がそんな情けない表情を浮かべてはならないのだ。応援の意味も込めて一度頭を下げてから厨房へと向かった。
「おはようございますナナキさん。お茶の用意ですか」
「おはようございます、リドルフ執事長。はい、主とミーア様の分を」
「ご苦労様です」
朝食の用意をしているリドルフ執事長に朝の挨拶。今日はいつもより早く準備を開始しているようだ。昨日読んでいた本の料理を早速練習しているのだろうか。アイナ・アイナの件を片づけたらナナキも負けずに料理の勉強をしよう。すぐに追いつきますよリドルフ執事長。フフフ。
その大きな背中に宣戦布告を心の中で叩き付けながら、お茶の準備をした。
用意ができたのなら氷を舐めながらミーア様の御部屋へと向かう。さあ主、今ナナキが参ります。果たしてお力になれるのかはわかりませんが、誠心誠意を尽くし主を支える所存。素早くお茶を運んでミーア様の御部屋の前に到達。ノッキングナナキ。
「――――ッ‼ だったら――――そも――――ッ‼」
既に怒声が響いてくる。大変だ、我が主が苦戦している。ナナキのノックもまるで聞こえていないのではないだろうか。かくなるうえは、突撃も止む無し。この扉の向こうは戦場である、覚悟せよ。覚悟完了、ナナキ突貫致します。どーん。
「失礼致しあふッ!?」
鳩尾にキャロットミサイル。ナナキも人間だから急所はいけないと何度も言っているのに。あいたた。
「主、ミーア様、お茶をお持ち致しましどぅッ!?」
喉っ。




