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雷帝のメイド  作者: なこはる
二章-アルフレイド家-
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マスターメイドはクールに去るぜ

「俺の勝ちでいいな、ミーア」

「ぐッ…………敗北を認めるわ……」


 終戦である。


 友の招雷、ならぬ笑雷を見て戦意を喪失しない者など居ない。


 人は神様の笑顔の前には争いの空しさを悟るのだとナナキは思い知った。大きいだとか小さいだとかは関係ないのだ。人類皆兄弟、ナナキのウィークポイントのことは投げ捨てるべし。今は速やかに戦後処理を済ませるべきだとナナキはナナキに提案する。了承、掛かれ。


 まずは自室にて給仕服の交換。その合間にもささっと身体を拭いておくのも忘れない。それが終わったのなら最速でバスタオルを三つ用意。点検、ふわふわ確認、汚れなし。提出よろし。雨雲が笑顔で吹き飛んだとはいえ先ほどまでは降っていたのだ、風邪を引いたら事である。


「タオルをお持ち致しました」


 この間、約二秒。ライトニングナナキ。


 我が主、ミーア様、そしてフィオさんの順番でささっと配る。大浴場にもお湯を張ろうと思っていたのだけど、ナナキソナーに感がある。人にも微弱ながら電気が流れているのだ。ナナキソナーはそれを敏感に捉えることができる。例えばこれはリドルフ執事長のものだ。


 恐らくは決闘が始まったと同時に準備していたのだろう。さすが執事長、伊達ではない。ならばナナキは温かい紅茶でも用意しよう。ナナキは特別な人間、如何に相手が執事長であろうと遅れをとるわけにはいかないのである。アイアムマスターメイド。


「ナナキの雇用は継続で異論はないな。ミーア」

「わかりきってることを一々聞かないで。私は決闘に負けたのよ」


 ミーア様は不機嫌そうにタオルを肩に掛けて屋敷へと戻っていく。さて困ったぞ。ナナキはミーア様と仲良くしていきたい。けれど今のこの状況では話しかけても逆効果となりそうだ。友よ、ナナキに知恵を貸してはくれまいか。


 なに? 人間に興味はない? また君はそういうことを言う。ナナキとはとても仲良くしてくれているのに、どうして他の人間ではダメなんだ。さっきも一緒に平和を成したというのに、君の気分屋なところは治した方がいい。


「ナナキ」


 ナナキです。


「大丈夫だ。それとご苦労だった」

「恐縮です」


 柔らかい笑みを浮かべながらミーア様のあとを追う主。もしかしてナナキは困った表情でも浮かべていたのだろうか。或いは主が鋭いのだろうか。ともあれ主が任せろと、そう仰るのであればナナキはそれを信じるのみ。その後ろ姿に一礼。


 やはり兄妹とは美しいものではないだろうか、友よ。


「あの……ナナキ……さま」


 なんと。


 主の背中に一礼をしてみればフィオさんが話しかけてきた。友好の架け橋が今降りようとしている。これが主の御加護ですか、なんというご利益。やはり先ほどの笑顔作戦も効いているのではないだろうか。結果としてナナキからの攻撃は行っていない。


 完全勝利のナナキスマイル。世界の皆さま、ナナキです。


「初めましてナナキと申します」


 あの日の屋根で一度顔を合わせてはいるけれど、正式な挨拶はまだ済んではいない。第一印象というものは大事だ。いや、この場合は第二印象なのだろうか。ともあれここも笑顔で対応するべし。ぜひナナキと仲良くして頂きたい。


「フ、フィオ・レーゲンです。その……ナナキ様は……」


 様付け。これはもう、確信を得ているのだろう。どうぞ、問いかけてほしい。ナナキにはそれに答える用意がある。必要であれば全てを説明しよう。それで主の御傍に居られるのならどのような言葉でも受け入れる覚悟がある。


「…………やっぱりなんでもないですッ!」


 フィオさんはすごい勢いで屋敷へと走っていった。


 ナナキの笑顔だけが残った。



 とりあえず当初の目的通り温かい紅茶をお持ちした。もちろん適温だ。リドルフ執事長も最近ではナナキの成長を認めお茶の準備を任せることも多い。あとは料理を任せてもらえればナナキはレジェンドメイドにまで昇格できるのではないだろうか。


「鬱陶しいわねッ! 用があるのなら早く言いなさいよッ!」

「風邪を引く前に風呂に入ったらどうだ」

「心配してくれてどうも。用がそれだけなら出て行ってくれる?」


 わあ。


 気付かれる前に開けた扉を即座に閉めた。そしてタイミングが見計らい易いように少しだけまた開ける。恐らくこの場にナナキが居ては主の邪魔になってしまうだろう。突入のタイミングは慎重に見極めねばならない。サイレントナナキ。


 決闘の決着は兄妹の絆に少しばかりの溝を作ってしまったのかもしれない。ミーア様からしてみれば、本来負ける筈のない決闘だったのだろう。


 貴族の間で決闘が特別なものであると言っても、感情までは抑えられないのかもしれない。それを抑えるには少しばかりの時間が必要なのだろう。負けて悔しい、それは当たり前の感情だとナナキは思うのだ。誰だって完璧では在れない。


 このナナキであっても、完璧であろうと努力はしている。それでもやはり、届かないものは存在するのだ。友よ、神様である君は自分を完璧な存在だと思うことはあるのだろうか。もしそうであるのなら、何を以てして完璧であると言えるのだろうか。ナナキにも教えてほしい。


 友は笑顔でサムズアップした。良くわからなかった。


「やっぱり納得はいってないんだな」

「納得も何もないわよ。私は決闘に負けたんだから」

「別に本音を言えばいいさ」

「…………ッ」


 すすり泣く声が聞こえた。


「私は間違ったこと言ってない……言ってないもんッ‼ 正しいのにッ‼ なんで私が負けるのよ……ッ」

「ミーアは正しいよ。貴族としてならそうあるべきだ」

「ならなんでよッ!? 正しいのになんでッ……‼」


 それは、弱いからだ。


 あの日にシルヴァに言われた。この心は汚いのだと。譲れない道でぶつかり合った結果、弱者が退くのは必然である筈なのに。ならばどうすれば良いのだろう。強者がその誇りを捨てて道を譲れば良いのだろうか。それならば弱者は進める。けれど強者はどうなる。


 共に歩める道ではないから戦っているのではないのか。どうしたって力を持つ者が得をする。それは才能であったり、努力であったり、様々な形でそれぞれが持っている。それを競い優劣を決する。それが人の歴史ではなかったのか。


 多分、ナナキはずれている。


「多分、俺が間違っているからだよ」


 そう。そして主も。


「悪い兄ですまない」

「……うううッ‼」


 ミーア様は主の胸の中で泣いていた。主の手は泣き止まない妹の頭を優しく撫でている。ああ、これは家族だ。羨ましい。


「お父様とお母様が亡くなって……だから私が頑張って……――――」


 扉を閉めた。


 これは立ち聞きして良いような内容ではない。アルフレイド家で主の御両親を見たことは一度もない。大方の予想はナナキにも付いている。けれど、その事実を知るのは我が主からの口からでなければいけない。美しい兄妹愛にナナキは不要だ。


 別に寂しがってなんかいないよ友よ。羨ましいとは感じるけれどね。


 今の御二人の邪魔をしてはいけない。幸いにもこの場を去る理由はあるんだ。ほら、すっかり紅茶が冷めてしまった。こんなものを我が主とその妹君にお出しすることはできない。どうだろう友よ。ナナキはなかなかにクールではないだろうか。


 友はわざわざ雷を出して文字を綴った。


 そこには当然の綴り。Coo…………Wall?


 ウォール。壁。


 フフフ、聞こえたかい友よ。今の音が。


 なに? 聞こえない? なんの音かって?


 ゴングだよ。

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