凶悪犯は許さない!
「この国の犯罪者をなんとかしたい」
彼は呟いた。
彼は政治的指導者で、他国のメディアには独裁者と呼ばれていた。
彼の国では犯罪に対する罰則は厳しく、年間100人を超える死刑を行っていた。
そのことでも、西側諸国は彼に対し、アレルギーのように反応をした。
しかし、それでも犯罪は収まることがなく、殺人や窃盗が横行した。
食料品など物資不足がその大きな要因だと彼も分かっていた。
しかし、目だった輸出品もなく、耕作地は干ばつで荒れていた。
彼はリンクをクリックし続ける。
次の動画が流れる。
「子供を使って・・・
これは面白そうだ」
それはN国のテレビ番組の動画だった。
彼は右手を上げる。
すると、濃紺のスーツの男が駆け寄ってきた。
「これを研究しろ」
彼の一言で物事は決まるのだ。
このスピードは独裁国の長所だったが、
舵を切り間違えると、とんでもない事になってしまう。
「3ヶ月で結果を出せ」
彼はスーツの男に念を押した。
3ヶ月後、彼はある施設を訪れた。
男の子の前に顔写真が並べられている。
「この中で悪い人を差してみて」
女性が言うと、男の子はすぐにある男を指差した。
「正解、よくできました」
女性は男の子を頭をなでた。
この光景をガラス越しに見ていた彼は微笑んだ。
「凶悪犯の正解率は75%です」
と白衣の男が報告した。
子供の第六感で凶悪な人間を見つける実験だった。
生命力の弱い子供は身を守る本能が優れている、とテレビ番組で知った。
それを彼が実用化させようというのだ。
「目標の95%にはまだ時間が掛かります」
白衣の男は額の汗を拭い、正直に報告した。
「そんな必要はない」
彼は白衣の男を鋭い目で見つめた。
男の顔は蒼白になった。
男は死を覚悟した。
「25%全部死刑にしてしまえばいい。
そうすれは、犯罪者を一掃できる。」
彼は男を見つめ続けた。
「冗談だ。
笑うところだ」
その番組の司会者はすべての笑いは『緊張と緩和』といつも公言していた。
彼は一つ手を打った。
「そうだ。
いい事を思いついた。
もっと生命力の弱い子供にやらせればいい」
彼は白衣の男に指示した。
また3ヶ月だった。
彼は施設を訪問した。
車いすの少女の左腕には点滴のチューブが刺さっている。
少女は写真を指差している。
「正解率は85%です」
白衣の男は説明した。
彼はガラス越しに少女を見つめ、頷いた。
「95%には高められそうだな。
よし、解明しろ。
DNAを。
世界を驚かしてやる」
それから5年が経った。
「この少年は犯罪者を見抜く能力があります。
実験での正解率は98%を上回っています」
司会の男はカメラをまっすぐに見つめていた。
車イスに乗った少年は無表情だった。
頭にニット帽を被り、左腕には点滴のチューブが刺さっている。
「それでは始めます」
司会者はそう言うと、胸ポケットから何かを取り出し、
並んでいる顔写真の列に加えた。
最高指導者、彼の写真だった。
中継スタッフは固まった。
この中継は全世界に生中継されていので、何も出来ない。
少年は司会者の方を向いた。
そして、微笑んだ。
ー許さない
ーこの子にしたことを俺は許さない
司会者は心の中で呟いた。
司会者は知ってしまったのだった。
この子が作られたことを。
体に不治の病を植え付けられ、
犯罪者を発見できるように生命力を人為的に弱められたことを。
躊躇することなく、少年は指差した。
彼、いや独裁者の写真の隣の写真を。
「正解です」
司会者は顔を引きつらせて、カメラに言った。
テレビを見ていた彼は、横の男に目配せした。
そして、首に手をあて、横に引いた。
男が部屋を出て行くと、彼は一人になった。
「バカなやつだ。
あの子が俺を凶悪と思うはずがない。
かわいい子だ。
853番目の」
少年は彼の遺伝子を基に作られた子供だった。
「核より遺伝子研究の方が儲かる。
倫理違反と言われて、つまはじきされた学者を集めるのは簡単な事だ」
5月4日の『ホンマでっかTV』を見て、思いつきました!