初勝利の余韻。
終わりの鐘が、鳴り響く。
戦いが終わった時にも、鳴るのか。初めて聴いた、勝利の鐘だ。
闘技場の扉が開いた。
そういえば、剣と鞘が別々に保管されていたことを最初は不思議に思っていたけれど。
それはこうして、武器も魔力によって形を変えるからなのかもしれない。
流石に鬼の血がついたまま鞘に入れるのはまずい。
戻って刀を拭ってから鞘に戻すか。
……と思ったら、刃についていた鬼の血が消える。
血まで取り込むのかよ。妖刀か、お前は。
手間が省けて良いけれど。
背中の鞘が形を変えて、赤き刀を包み込んだ。
この鞘が特殊なのは、この性質を知っていたからだろう。
今回は背負うように鞘を付けていたが、これなら腰に付けた方が良いかもしれないな。
りあは、見ていてくれただろうか。
勝てたよ。戦えたよ。
あのドラゴンから得た魔力と武器のおかげだが、俺なりに頑張ったと思う。
……でも、終わってみるとなんというか。
人間を辞めた、みたいな気がする。
戦っている最中は全然気にならなかったが、俺は大丈夫なのか?
少し、不安になってきた。
ちょっと強くなった、どころの騒ぎじゃなかった。
赤鬼を倒した。
これ、明らかに普通は出来る事じゃないよな?
りあに、恐がられたらどうしようか。
それにりあは、今頃どこかで何かされてはいないか。心配で。
会いたかった。どうすれば、会えるのだろうか。
武器と鎧の並ぶ部屋に戻ると、すぐに扉は閉まっていった。
この扉も魔力によるものなのだろうか。
疲れた。
そこに、りあがいることを期待していたけれど。姿は無かった。
すぐに探しに行きたい、とも思う。
――が、疲れた、と思ってからは一気に疲労が襲ってきた。
もうまともに動けない。休んだ方が良いだろう。
「水精霊の清水」を振りかけておく。
血の臭いが消えていく。
鎧の下に着こんでいた服も綺麗に浄化されていた。
自分の控室に戻り、ランプを点けた。
台の上へと刀を置いて、小手や具足、鎧を外す。
倒れるように、寝台へと転がった。
自分の手のひらを、じっと見た。
身体が悲鳴をあげている。早く寝ろ、と眠気も襲ってきている。
俺は、大丈夫なのか。
明らかに、身体が少し大きくなっている。
戦うための筋肉がついているのは、気のせいじゃない。
台の上の刀が震える。
――なんだ、小僧。何を恐れている?
(……化け物になってしまったんじゃないか、俺は。)
言語魔法。りあの本に書かれていた内容を思い出す。
感覚的なものへの理解が進んだ今、試しにやってみた。
――何を下らんことを。軟弱な貴様を少し強くしてやっただけのことよ。
成功したらしい。
これは魔力の基礎が身についた、ということなのかもしれない。
(俺は人間だよ。……人間を、辞めたくはない。)
――ハッ。自惚れおって。望めば竜や鬼にでもしてやるものを。
(勝てた事には感謝しているよ。ありがとな。でも、俺は竜にも鬼にもなりたくはない。)
――まぁ良い、寝てしまえ。更に力がつくだろう。それをどう使うかは貴様次第だ。
(……。)
どう使うか、か。出来れば、勝ち続けて。
りあの望みを、叶えて欲しい。
あの子が元の世界に帰りたいと望むのならば、俺はあの子の為に戦いたい。
(なあ、赤き竜……って呼ぶのも何か変だしさ。お前の名前は何だったんだ?)
――……。
あれ、反応が返ってこないな。寝てしまったんだろうか。
刀が寝るのかは知らないが。
(俺の名は太一だ。)
一応、俺も名乗っておく。
人に名前を聴く時は、まず自分から、と言うのを忘れていた。
――シャハル、だ。
寝てはいなかったらしい。
(シャハルか。分かった、よろしくな、おやすみ。)
――……。
ランプを消した。
そうして目を瞑って、眠ろうとすれば。
すぐに意識は落ちていった。