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3日目の目覚め。

 眼が覚めると、何時ものように――。


 「……あれ?」


 りあはいなかった。何だか少し寂しくなる。

 辺りを見渡すと、りあの書いたメモが置かれていた。


 「太一へ。今日は自分で鎧を着けてね。そろそろ魔力の使い方を覚えた方が良いと思う。たぶん、太一にも調整くらいならもう魔力が使えるはずだから。この鎧は色の魔力を吸い取って調整が出来るの。

鎧に手のひらを当てて。

この子に意識があるように、心の中で話をかけるような感覚で。ゆっくりと身に着けようとしてみて。

もし上手くいかなかったら、隣の武具庫に普通の装備があるから。場所は――。」


 と様々なことが丁寧に書かれていた。

 本を書いたり、りあは本当に細かい。まずはそのメモに書かれている通りに試してみる。

 りあの手を借りずにこれを着けられるようにならなければ。


 成る程、普通に触ると金属なのに。

 魔力を意識すると、一瞬だけブヨブヨとしたり生きているような。ちょっと固いスライムのようだ。

 こうはならないか?と考えながら手を当ててみると、本当にそうなってくれる。

 無機物が一時的に生命になって応えてくれているみたいだ。


 これが魔力か。

 俺の手から、温かい何かの存在を感じる。

 光のように目に見えるわけではないが、確かに何かの力がそこにはあった。

 まるで温い空気の手袋を纏っているみたいだ。


 この鎧は凄いな。

 自分で調整出来るようになると本当に良いものだったのだと思える。


 ……が、これが出来るようになったってことはもうりあに着せては貰えなくなるんだよなぁ。

 などと少し残念に思う俺もいる。


 続きを読んでいると、気になることが書いてあった。

「昨日の戦いの"報酬"として、この赤い長剣が贈られたの。今日は今までの剣のほかに、この赤い長剣を使うのもアリだから。重くてまだ無理っぽいなら今までの剣の方が良いと思うけど、持って試してみて欲しい。この長剣を使うなら、盾は使えなくなるけど。」

 と言う文章の通り、一緒に赤い刀身の長剣が置かれていた。

 何だこれ。結構凄い剣なんじゃないか?格好いい。


 試しに持ってみる。……あれ?軽く感じる。いや、この長剣そのものは重いか。

 俺が力強くなっているのかもしれない。

 それに、この剣を持っていると魔力を通している感覚があった。

 この赤い長剣が手の続きのような一体感がある。やけに手に馴染むな。


 柄や鍔などの装飾を含めて、どこかで見た覚えがあった。……あ。

 これ、昨日のドラゴンの赤い鱗じゃないか?

 もしかすると、あのドラゴンを素材にこの長剣を作った……?一晩で?

 そんな馬鹿な、と思いつつもここは異世界だ。それも有り得ると思う。


 持ってみると片手でも振り回せそうだし、これなら盾さえ持てるんじゃないか?

 と言う気がしてくるが、りあの助言通りに盾は置いていくことにする。

 動きの邪魔になるのかもしれないしな。


 鞘がちょっと特殊らしく、使い方の説明まで乗っている。

 わざわざ鯉口から抜かなくても剣を取り出せるようになっているらしい。

 

 剣を鞘に重ねることで自動で鞘が剣を包み込んでくれるのか。

 剣自体を引き抜くのも簡単。背中じゃなくて腰に着けても良い。

 居合みたいなことが俺には出来ないので、これはとても助かる。


 扱い方さえ分かれば結構使いやすそうだな。

 今回は背中に鞘を付けておこう。


 近くに、今日の食事もおかれていた。今日も食事は肉らしい。

 流石に冷めているが、内容は炒め物だった。

 「昨日のお肉の正解はドラゴンだよ。そして今日使っているお肉もね。」


 ドラゴンだったのかよ……美味かったけど。

 しかし今日の食事はちょっと寂しい。作りたて、って感じもしないな。

 腹が減っては戦は出来ぬ、だ。きちんと食べておこう。

 ……あれ、もしかして昨日倒したドラゴンだったりするのか?この肉の炒めものって。

 食べ始めてみると、ピリッと辛めで美味しかった。りあと一緒に食べたかったな。


 他にも、食事と一緒にアイテムが置いてあった。

 これもりあのメモ付きだ。


 「水精霊の清水」

 香水みたいな小瓶に入っている。

 「これを振りかけると身を綺麗にしてくれる」らしい。そういえば俺、臭いとかしないな。

 ここに来てから風呂とか入った記憶はないけど。

 もしかすると、りあは俺が寝ているうちにこれを振りかけてくれていたのかもしれないな。


 一応、ぱぱっと振りかけておいた。おお、ちょっと冷たいけれど。

 少し肌が輝いて、綺麗になったことが分かる。何本か小瓶が入っているが、結構な量だ。

 これは嬉しいな。風呂には入りたくなるけど、汚いのはイヤだしな。

 試しに食べ終わった炒め物の皿に吹きかけてみると、少し輝いてから一瞬で綺麗なお皿になってしまった。これは凄いな。本物の魔法の洗剤だ。


 他にも大きな袋が一つ置かれていた。

 こちらは特に何も書かれてないので中身は確かめなかったが、後でりあに聴いてみよう。


 りあの書いた本を読んでおく。

 「言語魔法」なら俺でも習得出来たりはしないだろうか。

 これは色の魔力を使った方法らしいし、初歩と書いてあったしな。もし対戦相手がまたあのエルフみたいな少女だとかなら、俺が話しかけて出来ることが何かあるかもしれない。


 唐突に俺の部屋の扉が開いた。

 「おい。……チッ、起きてやがったか。」


 見知らぬ男が入ってきた。

 浅黒い肌、長い耳。……ダークエルフ、か?

 「だ、誰だよお前。りあの知り合いか?」


 「……。」

 男は何も答えない。

 不機嫌そうに、俺の事を品定めをするように見てくる。

 殺気。怒気。不快感。敵意。

 あからさまにそれらを隠さず、男は負の感情を俺に向けていた。


 「……ん?日本語?」


 長い耳。……そういえば、記憶に少し引っかかる。

 恐怖に怯える、長い耳の少女。あの子の肌は白かったけど。

 何で普通に日本語を喋っているのかが少し気になる。


 言語魔法を使っている……のか?

 いや、あの魔術師の少女の時とは全然違う。あれはもっと脳に直接響いてくる感じだった。

 これは、魔法を使っているわけじゃない。普通に日本語を話しているんだ。


 「日本語が喋れるのか?俺の名前は太一、あんたの名前は?」


 「てめぇのせいで、りあは……。」

 俺の話は無視をされた。

 だが、男は気になる言葉を言った。


 「俺のせいで?」

 りあが、俺のせいで?心当たりが無くて困惑する。


 男は言い淀んで、続きが来ない。

 話すかどうか一瞬迷ったようだが。


 「良いか。てめぇのせいでな、りあは疑惑がかけられている。」

 「な、なんだよそれ。どういうことだよ?」

 「こいつに見覚えがあるだろう?」と男が見せてきたのは、身代わり符だ。


 「身代わり符、か?」

 「やっぱりか。てめぇ、もういっぺん死ねよ!」

 男の蹴りが飛んでくる。

 ――が、俺はその蹴りを片手で受け止めた。


 って、あれ?……え、なんで俺そんなことが出来るようになってんの?

 と驚きがあったが、そのまま足を押し戻した。

 すぐに立ち上がって少し距離を取る。

 こいつやべぇ。話の意味も全く訳が分からん。身代わり符がどうしたって言うんだ。


 「りあはてめぇが報酬を半分、分け与えてくれた代わり、とか言っているそうだが。」

 男が俺に向けて、手のひらを向けてくる。ヤバい、何かくる!と直感する。

 黒い霧のような何かが、男の手のひらに集まってくる。


 ――咄嗟に、俺は距離を詰めて男を腹からぶん殴った。

 壁まで吹き飛び、男は倒れた。


 魔法はどうも、発動までの溜めに少し時間がかかるらしい。

 言語魔法だけは違うみたいだが。

 りあの回復魔法、昨日のドラゴンの時の爆発魔法。そして今のよく分からん黒い霧。

 こんな間近で発動まで待つわけがない。


 殴った瞬間、黒い霧のような何かは霧散していった。

 流石に正当防衛だろう、これは。

 しかし何か俺、強くなってないか?と不思議に思う。

 心当たりはあのドラゴンだ。だが今は置いておこう。


 「待てよ。身代わり符がどうしたんだ?続きを聴かせてくれ。」

 俺は拳を握って、構える。まだ油断はできない。

 男に意識はある。腹に手を抑えて、息を整えているが。結構効いたのだろう。

 抵抗して魔法を撃とうとしても、また腹パンをくれてやろう。


 多分、こいつは肉弾戦には弱い。

 この狭い距離なら負ける気がしなかった。


 「……ッ。ちっ、何も……知らねぇ、のか。」

 まだ息が荒いので、少し待ってやる。


 「身代わり符は……、お前に許された装備のランクより、上で。規定外の品なんだよ。」

 それで分かっただろう、とばかりに男は立ち上がった。

 装備のランク?規定外?どういうことだろうか、りあの本に乗っていたか?


 「……。」

 考えてみる。そういえばさっき、りあが身代わり符をくれたのは報酬の代わりって……まさか。

 あの果物を半分こした時のことか!

 本来、俺が得るはずだった魔力の分をりあは装備で補完した。

 それがルールに引っかかっていた、とか?


 「……俺の、せい、か。」

 「あ?ようやく理解した、かよ。」男は息を整え、部屋の外へと向かった。


 男は壁に手をつき、憎々し気に声を絞り出した。


 「良いか、俺様がここに来たのはりあに頼まれたからだ。てめぇが鐘が鳴るまで起きねぇかもしれねー、ちゃんと今日の戦いの準備が出来るか心配だってな。俺がそのまま永眠させてやろうと思ってたが、命拾いしたな。」


 「待ってくれ。りあは、大丈夫なのか?」

 「ハッ。今回はてめぇとの接触禁止、って程度だよ。」

 良かった。もし殺されていたら、と心配だった。


 その俺の安堵した表情を見て、男は舌打ちした。

 「覚えておけ。後で闘技場で会ったら、絶対にてめぇをぶち殺してやるからよ……。」


 そう言い残して、男は部屋から去っていった。


 そこで、鐘の音が鳴った。

 ……戦いの時間が、来てしまったらしい。

 りあに心配をかけたくはない。

 今は、戦おう。そして出来れば、勝ちたい。


 赤き長剣を背に、闘技場へと続く扉へと向かった。

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