眼が覚めるとそこは。
――いつも通りに、眼が覚めるのなら。
ベッドの上で目覚めるはずだった。
たまに、もう遅刻しそうな時間になっている。
そうでなくても、朝は面倒だ。起きるのはいつも辛い。
今日も起きれば、高校に――。
そんないつも通りの高校生活は、今日からはこなかった。
眼が覚めると、俺はわけのわからない状況に混乱した。
まず、目の前に女子高生がいる。切れ長の目でとても美人だ。
ポニーテールに髪を結び、制服を着ていて。
知らない制服、知らない子だ。
こんな女の子を見たら、絶対に覚えているだろう。
良く見るとその制服は所々がボロボロになっているのが気になるが。
「あの……。」と俺は声をかけてみる。
その女子高生が、俺に鎧を付けているのだ。
そっちの方が気になる。
ぼけーっとその顔を見る俺を無視し、女子高生は黙々と動き続ける。
俺が眼が覚めたことにも気づいているはずだが。
いま、俺は声をかけたはずだが。
手慣れた手つきで小手、具足、と次々と俺を着替えさせていく。
この子が当然のようにそうしているので、俺はされるがままだ。
ていうか俺が鎧の下に着ている服は知らない服だ。
俺は寝る時は下着で寝る派なんだが……。どういうことだ。
訳が分からない。これは夢か何かなのかもしれない……と俺が思い出した所で。
「よし、と。」
目の前の女子高生が声を出した。
まじまじとこちらの様子を見ている。
「……えーと。これ、何?」
と俺が小手のついた手を挙げて聴くと、女子高生は何を当然と言わんばかりに首を傾げて。
「鎧だよ?」と答えた。
うん。鎧というのは、見ればわかる。でも聴きたいのはそうじゃない。
「……。」俺は何も答えられず、鎧のほうをじっと見た。
鎧は鎧でも、西洋の軽鎧のような代物だ。
それにしても、まるで俺用に作られたかのようにちょうど良いサイズだ。
鉄っぽい金属製の胸当て、膝当て、など間接の動きを邪魔しないように上手く噛み合っている。
「ここはどこ?何でここに俺はいんの?」と周りを見ながら聴いてみる。
そこは、全く見覚えのない一室だった。
周りには全身甲冑や軽鎧、刀剣、弓や槌、槍など様々な物騒なものが並んでいる。
中央には椅子とテーブルが並べてあり、俺はその中の長椅子の上で寝ていたらしい。
女子高生を目で追っていると、どうやら武器を吟味しているらしい。
「えっとね、説明している時間がないの。はい、これ。」
とこちらの問いは無視され、俺は抜き身の剣を渡された。
「は…?何これ?」
身に着けた小手も合わさって、結構重い。まるで本物のように綺麗な刃だった。
刃渡りは40センチくらいの、ショートソードという種類だろうか。良くは知らないが。
「それ、軽くしてあるから素人でも振りやすいはずだよ。で、これが盾。鞘はこれかな。」
「いやいや、そういうことじゃなくて。」言いつつ受け取りはしたけれど。
とりあえず俺は受け取った鞘に剣を戻した。危ない。何で抜き身で渡してきたんだろうか。
剣と鞘が別に保管されているようで、それもよく分からない。
「これからキミは戦うの。……殺されるかもしれないの。」
「戦う?殺される!?」
驚く俺に、女子高生は俺の後ろへと周る。鎧のチェックしているらしい。ぺたぺたと触っている。
「良い?キミは、異世界に来たの。ここは今までの世界とは違うの。」
「え、訳わかんねぇよ。何、ドッキリ?何かの実験?」
「と思うよね……。」と困ったように女子高生が声を出すと、どこからか鐘の音が聞こえてきた。
「時間だ。……頑張ってね。ちゃんと装備が間に合って良かったよ。」
そして、そのまま背中を押されて。俺は立ち上がった。
「ちょ、おい。待て、全然意味が……え?」
抵抗したつもりだったが、意外と女子高生は力強かった。
ぐいぐいと開いた扉の方へと押されてしまう。そのまま扉の外へ出ると――。
俺の見間違いでないなら。そこには、緑色の顔をした小人がいた。
まるでゲームに出てくるようなゴブリンだ。
それが、棍棒で武装していた。
「あとで色々教えるから。死なないように気を付けてね。」
そう背後から声が聴こえて、振り返ると扉が閉まっていた。