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テラストカハウストカ  作者: 大田康太郎
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テラストカハウストカ6

「テラストカ ハウストカ」


第二章 ダークナイトライヂング〓


敗戦後、三吉には、いつか又、輝ける帝国に舞い戻ると言う青写真がございました。当時の国民たちも、再び国際社会で胸を張り、上を向いて闊歩する日を夢見ておりました。青写真と夢の一致。だからこそ、裸一貫、国民総出で焼け野原からやり直せたのでございましょう。


しかし、三吉の青写真の道のりは、国際社会の厳しい目もあり、容易い物ではありませんでした。国民を時には裏切り人道を捨て、戦勝国のいいなりにも時にはなりプライドだって捨てました。全ては青写真、夢の為でございました。そのかいあってか、国際連盟に復帰し、オリンピック、万博まで招致出来る一流国家にまで…。この国に追い風が吹いておりました。風さえ詠み違わなければ、いつまでもいつまでも、もっと高みまでも飛んで行けるはず。お膳立てはもう済んだ、と安心したかの様に、いつかの帝国復活を夢見ながら三吉は永眠いたしました。


なのに、今のこの国の有り様や、誰が何をどう間違えたらこうなったのか。そりゃ、仕方の無い時代の流れだってあるだろう、それも込みの、想定外のハプニングだって込みの考慮した上での青写真だったはずなのに。問題が発生すれば順序立て、解決の優先順位を守れば、こうにはなっていないはずのだと。やはり、信頼し、才気溢れる後輩に託したとは言え、しょせん後輩は赤の他人。己、可愛さに、妥協もしたろうし、見栄も張ったのでありましょう。それが、その些細なズレが積もり積もって、この様とは。取れた国益を失い、誇りさえ失い、自滅しといて意気消沈、もはやもがく力も残っていない今日この頃。三吉は悔やんでも悔やみきれないのでございました。


三吉「我の命をかけた青写真を邪魔した内外の抵抗勢力に、復讐する時が来たのだ。それをやるべき人間は、海老家の血筋の者、ただ一人である。」


深見「なるほど、だから三ちゃんじゃないとならん訳ですな。復讐するは海老にありか…」


三吉「ああ、三太には子もおらんしな。神もこんな仕打ちをせずとも良いのに。全く不公平の極みだ。」


おや、三吉らしからぬ弱気な発言。ちょっと遠くなんか見ちゃったりして。天下の大政治家、海老三吉を持ってしても、神様には敵わない。幽霊の口から神様?嗚呼、やっぱり神様っているんだ…。神様には敵わないとしても、幽霊の三吉にも怖じけづく事無く、噛みついたは夏子でございます。


夏子「何よ、遠回しに私を責めてる訳。それセクハラ!」


三吉「嫁殿を責めてはおらん。これは神と我の問題だ。何も海老家の血を絶つまでするとは。」


夏子「やっぱり責めてるじゃない!女は子を産む機械じゃありません!お風呂も覗くし、男尊女卑甚だしい!セクハラばっかじゃない!そりゃ罰も当たるわ!」


三吉「罰か…ならば悪あがきぞ。最後の海老家の血筋の手で帝国を復活させるのだ。」


紙谷「でもオジジ様、三ちゃんが乗ってくれるでしょうか?」


三吉「その必要は無い。お主らが三太の妄想に乗れば良いのだ。」


深見「三ちゃんの妄想に乗る?オジジ様、そいつは土台無理な話ですって。」


紙谷「そうですよ、こちらが乗りたくても、三ちゃんが妄想してる内容が分からないんですから、乗っかりようがありませんよ。」


三吉「内容が分かれば乗れるのだな。」


三吉が顎で合図すると、背後で控えていた土方が、面倒くさそうに懐から書類を出し三人に配りました。書類は十数ページあり、何やら(クリスマス)とか(マシュマロ)などの不可解な単語が、ぎっしりと書き込まれております。尚、書類は左上をちゃんとホッチキスで止めてございました。三人は、しばし書類に目を落とし、


夏子「…これって、あの人の妄想の内容!?」


三吉「そうだ。しっかりと読み込んでいただきたい。」


紙谷「これは三ちゃんの妄想の設定資料って訳ですね。歴史から町の詳細まで…凄いな。下手なムック本より面白いですよ。」


深見「うーん、確かに良く出来ている。ここまで書くの大変だったでしょ?」


深見、当然とばかりに土方に質問いたしました所、


土方「俺は書類作りに雇われたんじゃねぇ。知るかよ。」


深見「…えぇ!じゃあ、オジジ様が!?」


三吉「ああ、夜な夜なパソコン打ってな。印刷して、ホッチキスで止めたのも我だ。」


幽霊なのに!?驚きであります。猫も杓子もデジタルだ、ITだと言われる現在でも、尚、パソコンが苦手な高齢者もいらっしゃると言うのに、高齢者より更に高齢で、なおかつ亡くなって幽霊の三吉がパソコンで書類製作したとは。幽霊が夜な夜なパソコンを操作する姿…想像つきません。これは憶測になりますが、夜な夜な人気の無くなったオフィスに現れては、いじり、馴れ、ああでも無いこうでも無いと努力した結果の書類なのでありましょう。一人で寝巻きも脱がなかった、と伝説を残した三吉がであります。三人とも、感心しきりのご様子。


三吉「驚くなかれ。幽霊なんだから、大抵の事は何でも出来る。理解するまで、ちと時間はかかったが。ちなみに警備の者を気絶させ、ペスを大人しくさせたのも我だ。すんなり入れたであろう。」


夏子「…そこまでして、私達にこれを読ませたかったんだ。何をさせたいんですか?」


三吉「三太の妄想の中の登場人物になってもらいたい。お主らには、伝説の四天王を演じてもらう。」


夏子「嫌よ!あの人の妄想ごっこに付き合うなんて馬鹿馬鹿しい。ねえ?」


夏子は深見たちに同意を求めましたが…おやおや〜



深見「私は嫌じゃないですよ。オジジ様、こう見えてもですね、私、学芸会で主役張った事もあるんです。」


紙谷「その四天王ってのは、どのページに載ってるんですかね。役作りってものは早目にこした事はないですからね。」


対する男性陣はやる気満々のご様子。二人ともページをめくり、四天王の単語を必死になって探しております。


三吉「まあ、そう言うな。嫁殿には、三太のリラックスの為に、毎日薬を飲ませていただかなくてはならん。この国家救済策の要なのだからな。よって嫁殿には、三太帝国、国王の妃役をやってもらいたい。」


妃役!?夏子は早速、書類をめくり妃の単語を探します。嫌よ嫌よと言う割には、やる気も見えますが。夏子、嫌いじゃないと見た。


紙谷「ところでオジジ様、四天王と申されますが、我々三人とあと一人は誰なんですか?」


四天王、四天王うるさいけど、紙谷、確かに気になる。良い質問いたしました。


三吉「あと一人は、この土方がやる。三太の警護、兼、事の次第の見張りだ。よって、王を守る忍者の役をやってもらう。」


忍者!?深見と紙谷、ちょっと羨ましそうであります。それよりであります、何処の馬とも分からない、しかも間違いなくカタギじゃない人間がいきなり大事な国政の一部を任せられるなんて。そんな責任重大な仕事任せられるなんて、普通の人間ならば躊躇するものでありましょうが、


土方「色んな人間から仕事の依頼を受けて来たが、御国からってのは初めてでね。楽しみしかないね。」


土方の発した(御国)と言う言葉。この男は、この(御国)と言う言葉の免罪符を使って、やりたい放題出来ると考えているのが、その後に発した(楽しみしかないね)に覗き見えます。そんな事より、この男が忍者役なのが羨ましすぎる深見と紙谷の視線のレーザービームを感じてか、土方は一言付け加えたのでございます。


土方「忍者…はどうでも良いけどな。」


良くないよ、ならば自分の役は忍者より格好良くないと。深見と紙谷の視線のレーザービームは、土方から三吉へと移ったのでございました。三吉は面倒くさそうに口を開きました。


三吉「フッ君には経済を任せる、知恵を司る神の役だ。カミヤンには国防を任せる、戦を司る軍神役だ。二人とも専門分野であろう。いかんなく手腕を発揮するように。」


神。良かった、忍者よりも格好良い。現役国会議員のプライドは保たれた様子、二人とも大喜びでございます。しかし、役の事よりも、やらなきゃならない大仕事の事を考えたら喜んではいられないはずなのですが。更に紙谷は、気になる事が一つございました。もちろん、役の事でございます。


紙谷「オジジ様、神の役となると威厳が必要かと。」

三吉「威厳?何が言いたい?」


紙谷「見た目、外見でございますよ。この場合、衣装と言うべきでしょうか。」


深見「そうですよね。神様なんですし、スーツ姿じゃリアリティー無くて三ちゃんを騙せないかもですな。」


紙谷「オジジ様の様な格好良い甲冑など身にまとっておりませんと。」


紙谷は、夜な夜な枕元に立つ三吉の幽霊を見て、ビビり失禁しながらも格好良いなぁ、と思っておったのでございました。しかし自分にも、こんな衣装を着るチャンスが巡ってくるとは。ならば着ようぞ。


三吉「確かに大切だな。カミヤン、確か子供の頃から絵が上手かったな?皆の衣装、カミヤンがデザインせよ。」


紙谷「承知。」


紙谷はこの言葉を待っておりました。何を隠そう、紙谷は現在、政治家になってはおりますが、本当は漫画家になるのが夢でありました。学生の頃など、有名な賞にも出した事もありましたし、雑誌編集部に持ち込みした事だってございました。腕に覚えあり。紙谷の、すでに燃え尽きてしまったはずの漫画家魂が、再びチロチロと燃え始めておりました。その熱は、きっとGペンを伝導し、インクをも沸騰させるに違いない。三吉以上の格好良い衣装を、この頭からひねり出してやる。紙谷はやる気であります。


夏子「え〜っ、そんな馬鹿な格好するの。嫌よ、私。そんな服持ってないし、買うのも作るのも嫌よ。」


深見「持ってるじゃない。いつぞやのパーティーで着てた。三ちゃんにプレゼントされたって言ってた、ビラビラがいっぱい付いてるドレス。」


夏子「ああ、あれね。確かに使える。あれ以来、着てないんだけど、何処にしまったかしら。」


やはり夏子、嫌いじゃない。憶測が確信へ。そこですかさず、頭の中のリトル夏子が現実へと引きずり戻すツッコミを入れたのでございます。


夏子「衣装の前に、この書類の信憑性よ。これ本当に、あの人に通用するのかしら?」


深見と紙谷なら口が裂けても言えない台詞、信憑性。頭の上がらない三吉に疑いなどかける訳にはいかないのですから。しかし、そこは恐れを知らぬ夏子グリズリー、妃役をふられたとは言え、夫に危険ドラッグを盛らされ、セクハラの限りを尽くす時代錯誤の女性差別主義者の幽霊への怨みを忘れた訳ではないのでありました。


対する三吉は、更に上を行くのでございました。そんな疑いをかけられるなんて想定内。ましてや、幽霊の言う事など、まともに取り合ってもらえるとは思ってはいないのでございました。深見と紙谷だってオジジ様などと言ってかしこまってはおりますが、実の所は夏子と同じ穴のムジナ。腹の中では、適当に話を合わせておいて、早い所いつもの様に消えてくれるのを待っているのは分かっているのでございます。発生した問題を受け流し、事が沈静化するのをただただ待つ…。この姿勢こそ、この国を弱体化させた原因であるのに、現役国会議員ともあろう人物は気付きもせず日常的に繰り返している。情けない、と三吉はため息を混じらせながら、


三吉「ならば、通用するかしないか試してみたら良かろう。」


三吉がドアの方へと目を向けると、小汚ないタオルケットをマントの様にまとった三太が入って来たのでありました。


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