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テラストカハウストカ  作者: 大田康太郎
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国入るゼウス 五四や苟安 厳い張る

「テラストカ ハウストカ」


第一章 タイヨウ ノ テイコク〓


そりゃ正論でございます。空間に亀裂を入れ、やって来ておいて異次元人で無いとすれば何者か。しかも知り合いっぽいときた。そんな高度な科学力を持ち合わせている知り合いなんて、そういる訳ではありませんし…んー、そんな事より、見れば見るほどこの鎧は格好良い、何処で売っているのだろう、と三太は購買意欲をかきたてておりました。


「鎧の事は忘れろ。ワシの声をよく聞け。ワシじゃ、お前の祖父、海老三吉じゃ」


…!?三太の祖父、三吉の名をかたるとは、何処の誰かは知らないが大きく出たね。三太の祖父、三吉とは、「昭和の怪物」などと呼ばれた大政治家でございます。政治家一家に生まれ、先の大戦でこの国が敗れて戦犯として投獄されるも、見事に政界にカムバックし総理にまで上り詰め、敗戦国家から高度成長した一流国家に至る礎を築いた功労者の一人でございました。


跡取り息子の三蔵、つまり三太の父も、もちろん地盤を継ぎ国会議員に。後々は二代続けて総理にと期待された三蔵は、多忙を極めて幼かった三太の養育を、一線からは身を引いていた三吉の手に委ねたのでありました。ですので、理論的には三太の人格形成に三吉は大きく携わってるはずなのですが、そんな重要人物の声を何故思い出せないのか。それもそのはず、三吉はとうに亡くなっているからでございました。そんな三吉が、今、目の前に立っている訳が無いのですから、この度は三太が正論であります。だとすれば、やはり異次元人…。堂々巡り。三太の思考能力の限界にしびれを切らし、海老人間は鉄仮面を脱いだのでありました。


三吉「分かりやすく言えば、陳腐になるが、ワシは幽霊じゃ。お前とこの国の危機を救うため、涅槃より舞い戻った」


おお、確かにそのお顔はオジジ様。三太は幼き頃から、三吉を敬愛の念を込めて、そう呼んでおりました。祖父であり、育ての父でもある三吉の幽霊を前にし、三太は自然と最敬礼、あわてて正座をするのでありました。パブロフの犬的な反射行動?いえいえ、三吉の幼少教育の賜物でございます。三太の反応を見て、家来もただ事じゃないと三吉の下にひざまずく。しかし、異次元人じゃなくて正体が幽霊だったとは…。目撃した超上現象の格が少し落ちた様な気がして、残念な三太がおりました。それより、亡くなった三吉が自然摂理をうち破り、この世に戻ってまで救いたい三太の危機とは何たるか。今より前に現れなかったと言う事は、総理辞任以上のさぞやとんでもない災難が待ち受けていると言う事。幽霊にまで同情されるとは。三太は己の身の上ながら、己を不憫に思うのでありました。想像するだけで、自然と涙が…


三吉「泣くでない、三太。これから長い夜が来る。もう一度、我と会う時は日の出の時じゃ。」


…何を言っているのか?トンチか?そんな寝言、一休さんに言え。何が悲しくて、幽霊とまた会う約束しなきゃならん?しかも陽が上った後に幽霊が出てきてどうする?言っている内容がバカボンみたいだ。以上、三太の心境でございました。


三吉「この国は陽上る国。必ずや二人で、太陽の帝国を蘇らせようぞ。その道しるべに、また参る。それまで、耐え難きを耐え、忍び難きを忍べよ」


三太「…はい!」


三太、大変良いお返事。鉄仮面を被り直し、三吉は名残惜しそうに空間の亀裂の中へと去って行きました。亀裂はスッといつの間にやら閉じ、先まで目の前にあった朱色が無くなったので、幾分寂しい印象で何事もなかった様にシーンと広がっております。黙って正座しておりました三太の頬を、涙がこぼれ落ちたは程無くしての事。足がしびれちゃったかな?いやいや、妄想世界に逃げ、妄想の様な理解し難い出来事を目の当たりにしたにもかかわらず、妄想とは真逆の現実へ一気に引き戻されたのでありました。己の軽はずみな行動の、事の重大さに気付いたと言っても良いでしょう。いつか又、あの幽霊と会う約束をしてしまったのですから。


例えそれが、感謝しても感謝しきれない祖父、三吉であったとしても、幽霊は幽霊なのでありますから。売り言葉に買い言葉ではありませんが、「会おう」と言われて「はい!」と流れとは言え返事をしてしまったのですから。しかも、よりによって元気一杯の良いお返事なんかしたものですから、そんなに自分にまた会いたいのかと、必ずやまた三太の元へ現れる事、間違いなし。そうであります。三太は幽霊など二度と御免なのでございます。そりゃそうでしょ、考えてもみて下さい。皆様にとっても、幽霊は恐怖の対象のはず。三太だって同じでございます。人間だもの。


いつか又、幽霊に会い、怖い目に会わなくてはならない。その前に、幽霊曰く、総理辞任以上の災難も待ち受けておるわけで、お先真っ暗、不幸の山積。おまけに親友たちの今日のあの態度、妻の今日のあの言葉、全てが水の泡となった今日の辞任劇。踏んだり蹴ったりでは、まだ足りぬ。踏んだり蹴ったり撃たれたり切られたり燃やされたり、とはこの事。そりゃ涙も出るってもんさ。


三太は再び、タオルケットを被って泣き始めたのでございました。男ならポンだ、チーだとナきたいが、男泣きするにはそれなりの充分すぎる訳もある。やっぱり三太、君の涙は美しい。家来も待ってましたと言わんばかりに「おいたわしや」と念仏唱え、再び三太の周りをグルグルと回り始めました。結局、家来がバターになる事などございませぬが。


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