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犯人は僕でした  作者: 駒米たも
本編
68/174

060 誘導

 “私の生み出したキャラクターを憎むも自由だ。愛してくれるならばそれに越した事はない。しかし彼らは既に私の手を離れ、読者方の世界によって構成される人間となった。確かに彼らの表面は私が書いたが、その本質は皆さんの想像力で補って頂きたい”


 ふと、あとがきの言葉を思い出した。

 トム・ヘッケルトンの言葉に触れられる、数少ない頁のひとつ。


 作者の手を離れた作品は読者の主観にゆだねられる。

 名作になるのも、駄作になるのも、一人の頭の中でだけ。読んだ人の数だけ、異なるミステリアス・トリニティがこの世には存在している。

 監督の言った「仕組み」とやらが何だか僕には分からない。けれど後書きのトム先生を信じるなら……作品とは作者の思惑を超えて「読者の印象イメージ」によって形作られるものだ。


 今ココにいる僕の「そうであれ」という強い思いこそ、物語に影響を及ぼすのではないだろうか。

 都合の良い話。もしもの世界でしかありえない魔法。

 そうだったら良いのにな。だって、もしそうなら……


 得意分野(こっちのもん)だ!


 例えば僕を霊能者だと信じ込んだテイラーさん達。

 本編で死体としてしか出て来なかったけれど、三日前にはロンドンを縦横無尽に走り回る大立ち回りをして見せてくれた。

 純粋にカッコいいと興奮していたけれど、その間の僕は「まるでテレビドラマの主人公みたい」と連呼していた気がする。


 その感想が、彼等の新しい内面キャラクターとして反映されてた可能性はないだろうか。珍しい事に、あの人たちからは子ども扱いされなかった。酔っ払い扱いだったけど。

 

 監督が僕を子供だと決めるキッカケになった「ユニコーンと盾」も「トロリーおじさんのお菓子ショップ」も、どちらも僕の意志で向かった訳じゃない。そのどちらも、エリザベスさんに連れて行ってもらった場所だ。

 アンデル監督が無意識のうちに、いや第一印象で「こいつは子供だから、ここに行くだろう」と思った意識がエリザベスさんの行動や意思に反映されたんじゃないか?


 そう思う理由は、監督が最近まで最新作「斜陽の楽園」の撮影にかかりきりだったこと。

 リンドブルーム船長とエリザベスさんは物語のキーパーソンだ。監督もあの二人については頭を悩ませ、設定を考えに考えただろう。最新作公開直前の監督にとって今現在、もっとも影響を与えやすい人物とも言える。


 特にエリザベスさんは「同じ年代の協力者が現れる」というサービス設定にも該当するキャラクター。監督が僕の事を「子供」だと思っている限り、彼女は遅刻に焦る白兎のように、監督が計画する事件の元へと誘導してくれるはずだ。


 その前提でいくと、監督の影響を受けているキャラクターを見つけるのは簡単だ。まず、監督が映像化した八作目までに登場するキャラクターで、僕をバカではなく、子ども扱いした人を思い返せばいい。


 英語がカタコトだったとしても、(リチャード)の見た目は大人だ。実際、アンドリュー君や港の子供たちは僕を大人として見ていた。メイドのミランダや酒場のマスターからはアホ扱いだった。


 彼らは監督からの影響ごかごが薄いのかもしれない。なら、僕が勝手に設定を掘り下げたら影響するのかな。実験してみる価値はあると思う。


 今の所、仲間にしたいのは屋敷の皆なんだけど、判断がしにくい。あの人達のこと、確実に信用できたら嬉しいんだけどな。


 そしてお屋敷メンバーより分からないのが、主人公二人組だ。ジャクリーンさんとジェイコブ先生からは間違いなく子ども扱いされていたと思うけど、レイヴンとシスター・ナンシーからはアホ扱いだ。

 一番まずいのは、主人公である二人が「トム・ヘッケルトン」の影響を受けていた場合。監督とは別の意味で恐ろしい事になる。


 ミステリー作品の作者とは、言いかえれば一番登場人物を殺した犯人に他ならない。見た目は優しいおばあちゃんだけど、人気キャラクターだろうが、お気に入りキャラクターだろうが、情け容赦なく鬼籍にぶっこんでいった事実を忘れてはいけない。


 トムさんからの参戦表明は無いから、恐らく傍観者か審判としての立場を取るんだろうけど……その気になれば作者権限で全員死亡エンドだって出来るだろう。

 

 僕は主人公達の味方だけど、主人公が僕の味方になるとは限らない。つらい。

 

 きっと、トムさんも仕組みは動かせるはずだ。監督は「私たち」と言っていたから。もっとも、マザー=トムさんという証拠はどこにも無いから彼女が「作者の未練」だと断言するのはまだ早い。


 それから、監督はもう一つヒントをくれた。


“私はアルバート・バグショーであると同時にアンデル・バーキンダムとしての記憶も、意思も、持っているからだ。ならば私はアンデルであり、同時にアルバートでもある”


 二つの人格の情報と意思を同時に持てる。

 それが本当なら、一番の味方はすでに僕の中に囲い込んでいる。問題は、どう「彼等」と交渉すべきかということだ。

 一人は、なぁ……。

 一晩だけ会った気がするけれど交渉の余地なかったなぁ……。

 あ、そうだ。人殺しといえば逃げたメイドさんはどうなったんだろう。


「監督、逃げたシャーロットはいま、どうしてますか?」

「遊びに行っているよ」

 遊びに行っている、という言い方は、つまり遊び終わったら帰ってくるという意味だ。

 不穏すぎませんか!?

 だけどそれ以上に不安なのは先程からアンデル監督が笑っていること。いや、アンデル監督じゃない。あれは、バグショー署長としての笑いだ。


「君は、シャーロットが女の子だと思っているんだね」

 不思議な聞き方をするものだ。

「思います」

「彼女は男だよ」


 彼女は男性です。

 例文として聞いたことはある。だが、理解が追いつかない。


「ハァ!?」

 だから興奮した僕が思わず椅子の上で立ち上がってしまったとしても、仕方ないと思う。


「でででも、メイド服着てたし!?」

「そうだな」

「可愛かったよ!?」

「そうだな」

「男って、染色体的に? それとも精神的に?」

「頼むから落ち着け」

「うぉおぉぉぉ、めちゃくちゃ美味しい殺人犯じゃん!!」


 できるだけ冷静に、そして彼? 彼女? とにかくシャーロットの顔を思い出す。

 ふんわりとカールした髪、バラ色の頬、どっかで見た事のある顔。男の、娘……? 


 初めて見たけど、あれは確かに性別を超えている。凄い。よく分からないが、凄い。演じている俳優さんがどっちかすら分からない。そんな感想しか出てこないほど、混乱している。

 僕が椅子に座るのを待って、監督は喋り始めた。


「ウィリアムと言ってね、彼の存在を、君は知らないだろう?」

 その言葉には暗に自分は知っていると得意げな色がみえる。

「知らないです」


「抵抗なく女性の恰好をしているところからも分かるだろうが、彼は少しネジが外れた類の殺人鬼だ。未完の、十三作目に登場するはずだった。彼はね、妊婦をみると我を忘れてしまうんだ。その所為で毒死するはずのキャロライン夫人は思った以上に悲惨な最期になってしまった。今夜は、昨日逃した獲物に、止めを刺しに行ったよ」


 幻の十三作目。キャロライン夫人の妊娠。

 それらも気になるけど、いま凄い爆弾が落とされた。

 誰だか分からないけど、誰かが危ない。


 昨日逃した、って言われても。晩餐会に妊婦さん来てたっけ!? 見た覚えがないな! 

 いやいや、見た覚えがないって事は、会ってない人だ。

 考えろ、思い出せ。えーと、えーと、そうだ! ご飯作ってくれた人! ミランダさんの知り合いのイリーナさん! 彼女、臨月だから早めに帰ったって言ってた!


「その様子だと、被害者が誰だか気がついたか」

 アンデル監督の穏やかな顔が凄く、怖い。


「大切な私の友人に、今夜の惨劇を捧げよう。監督による解説付きでね」


 これほど聞きたくない、オーディオコメンタリー。初めてです!!

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