表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犯人は僕でした  作者: 駒米たも
本編
61/174

053 帰宅

主人が帰ってきたのを察したのか、膝の黒猫がみゃあと鳴いて顔をあげる。

「ライン卿。どうかされたのかね。今日は疲れている。謝罪なら後日改めて行わせてもらいたいのだが」

 僕の来訪に、バグショー署長はひどく驚いている様子だった。

 膝の上に乗っかった黒猫を一瞥して、それから僕をまっすぐに睨みつけてきた。

 けれど驚いていたのは僕も同じだった。いつの間にかバグショー署長は書斎の中へ入っていて、僕の近くに立っていたのだから。


「いつのまに?」

「ああ、ここの扉は角度によって音が鳴ったり鳴らなかったりする。驚かせて申し訳ない」

「すごくおどろき」


 バグショー署長はやや不機嫌そうに眉をひそめた。

「私に何か用かね」

「あ、あの。拾い物をしまして、警察に届けよう、思いました。でも警察場所しらないから、あなたの家へ」

「ほう」

 足元に置いてあるスーツケースを蹴ると、緩くなった金具が遂に外れた。

 赤いペルシャ絨毯に現れた阿片入りのスーツケースをバグショー署長は無感動に見下ろしている。


「これは、これは一大事ですな、ライン卿」

 まったく緊張感がない声でバグショー署長が言う。

「どこで見つけられたのですか?」

「倉庫」 

「そうですか」


 僕が腰を浮かせるのと、バグショー署長の腕が指揮者のように揺れるのは同時だった。

 気が付いた時には前髪越しに銃口を当てられていた。


「もう一度だけ聞く。これをどこで手に入れた?」

「倉庫」

 嘘はついていない。

「君の袖口の裏には僅かに血が付着している。誰かから奪ったのだろう?」

「もしかして報告があった?」


 しまった、コートの下のシャツは見落としていた。もしかしたらゴドウィン達を縛り上げた時についたかもしれない。袖口に目線を落としたけれど、多少の煤がついている以外は綺麗なものだ。


「君は、マーシュホースを潰したいのか」

「結果的にそうなってるね」

「いつからだ。いつから私を疑っていた?」

「バグショー署長がマーシュホース商会の裏の顔であると、疑念をもったのはついさっき」

「くっく、白々しい。私の家まで調べておいて良く言う。しかし愚かにも証拠品を持ち込んだのだから、本当のことだと信じよう」

 疲れ果てた顔が壮絶に笑うととても怖い。

「君とはあの夜が初対面だと思っていたのだが。どうやって調べた」

 それは違う。バグショー署長とは今まで何度もあっている。それは小説の中で、映画の中で。彼は僕の事を知らないけれど、僕は彼の事をよく知っている。

 ……否、本当にそうだろうか。

 バグショー署長のことはよく知っている。いつでもうっかりバグショー署長。不機嫌で猫好きのバグショー署長。

 ちょっとした違和感だった。僕はポケットの中に手を入れて、掴んだものをパラパラと床に落とす。

「キャンディー?」

 それがどうしたと言わんばかりの表情に得心がいった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ