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043 監督
「僕が出る!」
「お待ちください、リチャード様!」
ガタリと椅子を蹴って立ち上がった主人の奇行を、エルメダさんは止めようとした。
「せいやっ!」
何度も通った正面玄関ホールは小さい窓のせいか薄暗く、調度品の色彩のせいで赤黒い印象を受ける。走ってきた勢いも付けて玄関の扉を両腕で押し開いた。ウォールナットの深い黒味がかかった両開きの扉だ。重々しい見た目通り、ギギギと木が軋む音を立てて静かに外へ通じる出口を開いて行く。
お前は猪突猛進だから、考えてから動きなさい。
この助言は誰から受けたものだっただろうか。
少なくとも、三人くらいは呆れたような笑顔を浮かべて言った。
四人は頭を抱えて言ってくれた。
十人以上が、関節技か格闘技でこちらを絞め落としながら言ってくれた。
玄関の扉を開けると軒先を支える灰褐色の円柱がいやでも目に入る。緑塔館を支える大部分の石が、この灰褐色と同類の巨大な石で作られているからだ。芝生の緑が目に眩しい。そして、
「よう」
絶句するリンドブルーム船長の姿と、かろうじて挨拶を口にするエリザベスがいた。




